農家やJA役職員、公務員ら127人が回答。1位の「栽培・飼養技術」は74%、2位の「品種・血統」は72%と、ほぼ同水準。次いで「暑熱対策に必要な設備」が38%、「再生産可能な農畜産物価格」が32%、「収入保険などの減収補てん制度」が22%と続いた。
「黒点米が出ている。近年も発生していたが今年は目立つ」と話す愛知県の50代男性専業農家は、水稲の生育中に「日中の気温が35度以上になる日が多かった」と振り返る。高温が定着する可能性を考慮し「持続可能な生産につながる価格形成に向けた法整備、品種改良や高温対策情報の共有などを早急に進めるべきだ」と訴える。

東京都の50代男性兼業農家はブロッコリーの定植後、「苗が暑さで溶けてしまった」という。畑の一部で欠株が発生。昨年も同様の被害があったが「ここまでひどくはなかった。酷暑に耐えられる品種の必要性を強く感じる」と話す。
新潟県の50代女性兼業農家は、11月上旬に収穫したダイコンの内部が腐っていた。9月の種まき後、高温や5日間連続の雨が重なった。「こんな腐り方は初めて」と困惑し、技術の向上や品種の改良に期待を示す。


畜産・酪農では細霧冷房や送風ファンなども重視される中、群馬県の40代男性畜産農家は経営持続に必要な対策に、暑熱対策の設備を挙げた。「発育が遅れ、繁殖成績も低下している。適切な設備投資ができないと生産が続かない」と話す。

九州大学大学院・広田知良教授
高温にどう対応していくべきか、九州大学大学院の広田知良教授に聞いた。
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実際、23年の日本の平均気温は、過去30年の平均よりも1・29度高く、過去最高の上昇となった。24年も6~8月の気温は、各地で平年を1度以上上回った。温室効果ガスも上昇傾向が続いている影響もあって、大気中の熱を海洋がより吸収しにくい環境になってしまっている。今後、気温が下がる要素は見つけにくくなっているのが現状だ。
■高温影響前提で生産を
農畜産業は、高温によって作物や家畜の生育へ悪影響を与えるリスクがあるということを前提に、生産に取り組む必要がある。十分に警戒して対策を講じ、仮に少し気温が下がったとしても「お釣りが来る」くらいの状態にしないと、今の高温を乗り切るのは難しい。今までの経験では対処しきれない状況が全国規模で続発している。どんなリスクが発生するのか検証していくことが重要だ。
米などの収量や品質低下は、高温だけでなく日照不足の影響も大きい。高温に伴って害虫や病害、雑草も発生しやすくなっている。九州では今年、夏が暑すぎてカメムシの活動が一時期止まり、気温が下がると活動しだしたという現場の状況も聞く。一方、北海道でも近年、高温によって畑作物の生育に影響が出ている。
ただでさえ高温の中、豪雨・長雨が重なることによる病害のリスクも高くなっている。大量に降る時と、全然降らない時という二極化の傾向が強くなっている半面、病害が発生しやすい高温多湿な環境が生まれる地域は広がりつつある。その一例が今年の東北。九州など西日本で多かった豪雨が東北でも発生した。一方、九州は11月に 夏のような雨の降り方があった。
畜産・酪農でも、家畜の繁殖能力や健康の確保が従来よりも厳しくなってきている。
■官民で連携、情報共有が鍵
高温対策の栽培技術や適応品種の開発を巡っては、現場に普及するまでに時間がかかるという課題がある。気候の変化が早く、普及したと思ったら気候は次のステージに入っていることもある。そのギャップを埋めて技術や品種の精度を気候変動に追いつかせるには、研究側と、研究成果を現場に広める行政やJAなどの民間が今以上に情報を共有していく必要がある。注目したいのは、先進農家の技術だ。気候変動を想定した栽培管理を取り入れ、成果を残しているケースは多い。他の農家も取り入れられるよう、研究機関が原理を解析し、汎用(はんよう)的な技術を確立していくことが望まれる。JAが果たす役割も大きい。現場の農家とつながっていて、さまざまなデータや情報が集まるというJAの利点は、高温対策の開発と普及を後押しする。
高温対策の技術や品種の性能を高めていくには、広域な連携も重要だ。一部品目では栽培適地の北上や作期の変動などが進む。普及前の技術や品種の実証試験を北から南まで広範囲でできれば、さまざまな環境下での知見が蓄積、共有できる。国が主導し、JAの力も得ながら、都道府県の垣根を越えて全国規模での官民の連携を推進していくことに期待したい。
ひろた・ともよし 九州大学大学院農学研究院気象環境学分野教授。農研機構、北海道大学連携大学院客員教授などを経て、2020年4月から現職。日本学術会議・農学委員会農業生産環境工学分科会の連携会員として、気候変動に対する国内農業の適応策などに関するレポートの取りまとめに携わる。