大賞
埼玉県川越市・塩川武彦さん

現在では全国の農水産業に従事する方から連絡が来ており、ニーズに合わせ、軽量皿のサイズ変更や防水加工を施し、実際に使用してもらっている。「作業効率が上がった」「非常に助かっている」などの声は私にとっての励み。今後も現場の声を聞きながら、幅広い分野で活躍できるようなアイデアを生み出していきたい。(埼玉・いるま野)
<技術概要>
野菜を自動で選別する小型ロボットを開発した。計量皿に収穫物を載せると、重量に応じて皿が異なる方向に傾き、各コンテナに仕分ける仕組み。収穫物1個を1秒ほどで処理できる。新規就農者など経験が浅い人や障害者が働く農福連携の現場などでも、ベテラン農家と同じ効率での作業が期待できる。
<審査講評>
▽開発した技術内容も高度で、コンテナ四つの中央に設置して選別する作業方法が独創的かつ実用的で非常に優れている
▽未経験者でも、熟練者と同じように選別出来るのが素晴らしい。他の作物にも応用が利き、汎用性があるのも良い。
優秀賞
兵庫県宍粟市・福澤隆行さん

2015年に続く2度目の受賞で、大変ありがたい。イノシシやシカがよく現れるので、困った自治会から頼まれて製作した。物を作るのは面白い。また誰かに「どないかしてくれや」と頼られたり「こんなものがあったらいいな」と思いついたりしたら、新しい発明に挑みたい。
<技術概要>
回転軸となる鉄製パイプに、鉄の棒を計12本刺し、水路に固定する。水流で棒が押され、くるくると回る。回転式のため、草やゴミが詰まらずに、野生動物の侵入を防ぐことができる。
<審査講評>
▽低価格で、維持動力なし、ごみ取り不要の素晴らしい技術
▽水路の大きさに合わせて製作でき、構造も単純で良い。
前橋市・須藤牧場 須藤晃さん

牧場では長年、障害者や外国人など多様な人材に働いてもらっている。誰でも視覚的に工具の収納場所が分かるように作った。受賞を機に、薄くなってきた工具のシルエットを描き直し、今後も整理整頓に努めたい。
<技術概要>
工具の収納ボードに、ハンマーやスパナ、ドライバーなど、それぞれの収納場所にシルエットを描いて、工具の定位置が一目で分かりやすくしている。探すのに手間がかからず、すぐに作業に取りかかれる。
<審査講評>
▽工具がきちんと管理されている作業場は整理整頓が行き届き、結果として生産性の向上や作業安全につながる
▽文字でなくシルエットで分かるようにすることで、外国人も含め多様な人材が活躍できる環境を整えている
青森県つがる市・工藤庄平さん
片方のハウスで太陽光で暖めた空気を、ダクトを通じて隣のハウスに送り、ニンニクを乾かす方法。ニンニクのハウスは、日焼けして商品価値が落ちないよう遮光ネットで覆うため、室温が上がらない。別のハウスから暖気を送り込むことで、好天の日中ではニンニクを乾燥させるハウスの室温を40度以上にできる。ボイラーの加温が不要で、地域の平均的な乾燥方法よりも約1カ月間で灯油代を9万円前後圧縮できた。

▽燃油高騰の中で多くの生産者の参考になる普及性のある取り組み。実際に経費削減効果も出ている
▽2棟利用することで、太陽光遮蔽と太陽熱利用を両立させ燃油節約につなげるアイデアが面白い
講評
岩元明久審査委員長

本紙に掲載された営農技術アイデアは、こうした情勢を反映している。農作業の効率化・軽労化、熱中症対策や、有機農業で重要になる除草対策、他にも身近な資材や資源を活用して、各課題の解決につなげるアイデアや技術が目に留まった。
大賞の「重量で野菜を仕分けする小型ロボ」は、小さい機械ながら、「スマート農機」と十分言える装置。計量皿に野菜を一つずつ載せると重量に応じて皿が傾く仕組みで、選別作業を効率化できる。こうした“小さなスマート技術”が面白く、今後に期待したい。
優秀賞に選ばれたイノシシの侵入防止柵は、農業用水の利用という農業技術の伝統も感じるし、低コストでかつ、面倒なごみの除去が不要なのが良い。工具ボードにシルエットを付けるアイデアは、置く位置を決めているので工具がきちんと整理される。整理整頓は、GAP(農業生産工程管理)の第一歩であり、整理されていると適時適切な作業が可能になる。ニンニク乾燥のためにハウスを2棟つなげるアイデアは、遮光と太陽熱利用を両立させるアイデアが面白い。燃油の節約につながる。
大賞の野菜選別機や、最終審査に残った「座って楽に除草する移動式台車」は、楽しく作業する声が聞こえてきそうなアイデアだ。農作業はつらいだけではなく、本来はこうした楽しい面もあるとあらためて感じさせられた。
(全国農業改良普及支援協会会長)
紙面で紹介した農業者発のアイデアのうち、省力、省エネルギー、高収益、多収といった効果や独創性などから優れた技術を選び、表彰する。2012年度に設けた。24年に掲載された記事の中から予備審査で候補12点を選び、2月28日に有識者の審査委員で最終審査した。
▽審査委員
・岩元明久氏(全国農業改良普及支援協会会長)
・深山大介氏(農研機構・農業機械研究部門無人化農作業研究領域領域長)
・洒井雅博氏(全国農協青年組織協議会会長)
・川島豪紀(日本農業新聞編集局長)
■受賞以外の最終審査記事は次の通り。
◆「熱中症対策 かん水装置で負担減 市販資材使い自作、苗品質も上々」(鳥取県大山町)5月9日付営農面 ▶動画で観る
◆「水稲直播 ボート自作 体の負担減り時短に」(鳥取市)6月4日付営農面 ▶動画で観る
◆「除草・収穫 座って楽に 移動式台車を自作」(鹿児島県南さつま市)7月3日付営農面 ▶動画で観る
◆「廃材使いもみ殻散布車」(滋賀県東近江市)7月23日付営農面 ▶動画で観る
◆「田の水位調整を楽に 落口板で特許」(北海道蘭越町)7月26日付営農面
◆「土寄せで株間も除草 除草機後部にほうき装着」(北海道当別町)8月20日付営農面
◆「ブロッコリー定植 一度に六つ穴開け 硬い土にも難なく」(徳島県阿波市)9月3日付営農面 ▶動画で観る
◆「荷台に自作クレーン もみ殻散布 ダンプ代わりに」(栃木市)12月17日付営農面 ▶動画で観る
〈再訪 農家エジソン〉も展開中
アイデア大賞受賞者は発明好き。きっと、さまざまなものを考案しているはず――。そんな考えから、受賞農家を再び訪ねる企画「再訪、農家エジソン」を展開しています。タグ<再訪エジソン>から、記事の一覧をご覧いただけます。