埼玉県熊谷市は、後継者のいない農業経営を第三者に継承する第三者経営継承を積極的に実施している。2019年から現在まで4件の第三者経営継承が行われ、そのうち3件は主穀分野の継承。全国的に見ても、主穀の経営継承は事例が少ない。全国有数の二毛作地帯で、米麦の生産が盛んな同市。地域の優れた主穀経営を、次世代に引き継ぐ先進事例となっている。
同市の井田文雄さん(77)は23年1月、さいたま市在住の高橋秀征さん(53)に、農地、施設、機械などの有形資産や栽培技術、販売先などの無形資産を継承した。井田さんは長年にわたり、米麦を中心とした農業経営に取り組んできた。熊谷市を代表する主穀農家の一人として地域農業をけん引してきたが、子どもに農業を継ぐ意思がなかったことから、今後の農業経営について悩んでいた。
経営継承者の高橋さんは農家出身ではなく、大学卒業後はIT業界に勤めていたが、19年に退職。義父の農作業の手伝いをしていた時に、偶然圃場(ほじょう)で井田さんと出会った。その後、20年に井田さんの下で就農し、井田さんに後継者がいなかったことから第三者経営継承を決意。県農林振興センター、市、市農業委員会、JAくまがやなどが連携し、経営継承を支援した。

高橋さんは現在、水稲7・5ヘクタール、小麦10ヘクタールを生産する他、関係機関の協力を得ながら、新たな取り組みとしてネギを20アール栽培している。24年6月には、JAの青年農業者組織「JAくまがやアグリユース」に加入し、同世代の農業者と親交を深めながら、情報を共有している。
高橋さんは「井田さんは常に先を考えて効率的に農業に取り組んでいた。素晴らしい技術や考え方を全て継承するのは大変かもしれないが、良い経営者になれるように今後も努力していきたい」と話す。
井田さんは「主穀農業は経営面積が大きいため、やめてしまうと地域農業に影響が出てしまう。今後も地域の農業を守り未来につなげるため頑張ってもらいたい」と期待を寄せる。