基本法検証に着手 農政審
農水省は29日、食料・農業・農村政策審議会を開き、食料・農業・農村基本法の検証に着手した。食料安全保障の強化が課題となる中、農産物価格の低迷が担い手不足につながっているとの意見が続出。消費者理解に基づく適正な価格形成が可能な環境を目指し、同法を見直すべきだとの声も上がった。野村哲郎農相は「国民的コンセンサスを形成していく」と強調した。
野村農相は審議会の冒頭、「農業を取り巻く情勢が想定されなかったレベルまで変化している」と強調し、東京大学の大橋弘副学長(審議会会長)に情勢変化を踏まえた基本法の検証を諮問した。
農水省は1999年の基本法制定後の変化を説明した。農業が主な仕事の基幹的農業従事者について、98年の約240万人から2022年には123万人と半減し、平均年齢は67・9歳に達したと指摘。今後も「大幅に減少することが確実」との認識を示した。
審議会委員を務める東京大学大学院農学生命科学研究科の中嶋康博教授は、農産物価格の低迷が後継者の確保を阻んだと指摘。「食料・農業・農村分野の深刻な人手不足は対応を誤ると食料供給力を破壊し、日本の農と食の将来を危うくする」と懸念を示した。
JA全中の中家徹会長は「農業や農村の現状の厳しさが理解されていない」と指摘。生産コストを農産物価格に転嫁できていないと訴え、国民理解の醸成が必要だと訴えた。
日本農業法人協会の齋藤一志副会長も、価格転嫁ができない現状を問題視。「若い人がなぜ定着しないかと言えば、(農業で)食えないから」だと述べ、基本法の見直しで改善したい考えを示した。
日本生活協同組合連合会の二村睦子常務は書面で、農業の課題やその解決に必要な政策への消費者理解が十分ではないとし「幅広い国民の理解と支持が不可欠」とした。
同審議会は諮問を受け、基本法検証部会の新設を決定。部会長に中嶋氏、委員に中家氏や二村氏ら幅広い分野の有識者を選んだ。10月中旬にも初回会合を開き、月2回の頻度で1年ほど議論し、農相に答申する。
<ことば> 食料・農業・農村基本法 「農政の憲法」とされ、国の農政を方向付ける。農業に加え食料、農村の概念も包摂し、国民の生活安定や経済発展を目的とする。食料の安定供給、多面的機能発揮、農業の持続的な発展、農村振興を基本理念に、理念の具体化へ「食料・農業・農村基本計画」策定を定める。