政府は「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法の改正に着手した。1961年の農業基本法、99年の現行基本法の制定に続く、3度目の農政のアップデートだ。有識者らのインタビューを通じ、来たるべき新農政を展望する。
#1 多様な農業人材 #2 担い手問題 #3 ジェンダー #4 スマート農業 #5 産地振興 #6 農村活性化
「特別な地域」を支え合い
永岡里菜(ながおか・りな) おてつたび代表。1990年三重県生まれ。千葉大学卒。ディレクターとしてイベント企画・制作会社での勤務などを経て、2018年7月に同社を設立。23年6月よりシェアリングエコノミー協会の幹事も務める。
日本全体として人口は減っていくけれど、誰もが出身地や居住地以外に好きでたまらない「特別な地域」を持ち、一人が何役にもなって、地域間で支え合っていく未来が創れないか。
短期的な働き手を確保したい地方と、お金をかけずに農村への旅行を楽しみたい若者らをマッチングする「おてつたび」は、そんな思いから生まれた。
私が生まれた三重県尾鷲市も含め、2040年には896の自治体が消滅すると言われている。だが、どんな地域にも次世代に残していきたいものや魅力がある。どうしたらそんな地域にスポットライトを当てられるか。200人ぐらいにアンケートや聞き取りをしたら、みんな行きたくないのではなくて、ただハードルがあるだけだと気付いた。
金銭的なハードルと心理的なハードルだ。「どこそこ?」と言われる地域ほど、交通費が割高で情報もない。お金をかけて行っても、地域をどう楽しんでいいか分からない。交通費の軽減と地域へ行く動機づくり、という二つの課題が浮かんだ。
おてつたびでは、お手伝いという新たな目的をつくり、そこで得られたアルバイト代で地域を旅する。地域側は人手確保につながり、参加者側はその後も地域の産品を応援購入するような「関係人口」になれる仕掛けだ。
事業スタートから4年半で、登録者は4万人を超え、受け入れ先も全国1000カ所以上に拡大した。うち4割が農業を含む第1次産業だ。農家からは、人手を集められることが安心感につながっていると聞く。
関わる入り口増やして
地域に定住者が増えることだけがゴールではない。おてつたびのように労働と旅行を組み合わせて行ってもいいし、EC(電子商取引)サイトで特産品を買って、まずは農家の思いを知るだけでもいい。地域と関わる入り口を増やし、関心を持つ人が一歩踏み出しやすい環境をつくる。
農村に人を呼び込むには、外から来た人が地域を好きになって、関わったことを誰かに話したくなるような、「関わりしろ」をどうつくっていくかも鍵だ。農村部は「よそ者」が訪れる文化が根付いておらず、受け入れ環境にも差がある。関係人口をつくるためには、よそ者を歓迎するマインドもとても大事だ。