[論説]スマート農業法案 安全への配慮最優先に
農水省によると、スマート農業とは「ロボット、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)など先端技術を活用する農業」を指す。基幹的農業従事者は今後20年間で現在の約4分の1の30万人に激減することが予測される中で、スマート農業は重要な技術の一つとなる。
このため同法案は、省力化や生産性向上に役立つ先端技術を導入する農家を融資や税制面の支援や、産地ぐるみでの機器導入を後押しする。十分な財源確保を求めたい。
近年、北海道を中心に導入が進むのが、一般的なトラクターに後付けできる「自動操舵システム」。自動で正確な作業ができ、大区画の直線操作が楽にできる。1台100万円程度と、比較的安価に設置できる中国メーカーの商品が人気だ。
ただ、こうした技術を過信するあまり、安全への配慮がおろそかになっていないか。北海道芽室町では4月、自動操舵システムを搭載したトラクターにひかれて46歳の農家が亡くなった。操作中にトラクターから降り、作業機のタイヤにひかれたとみられる。
一部で「無人トラクター」による事故と報じられたが、自動操舵は、人や障害物の検出機能がある無人(ロボット)トラクターとは違い、使用者が搭乗した状態で走行しなくてはならない。改めて事故防止を啓発する必要がある。
ドローンによる事故も多発している。国土交通省によると、ドローンを含めた無人航空機の事故は2022年12月から24年1月までに97件発生した。多くが操縦ミスで、機体が操縦者の顔に接触して顎を縫うけがを負った例や、機体が農道に出て車両と接触した例もあった。
スマート農業だから安全、と捉えるのは早計だ。人間は時に間違えるし、電波の状況などによって機械が不具合を起こす場合もある。加えて田畑への進入路や斜面の角度など作業環境はさまざまだ。
法案は、技術の活用促進に重点を置いているが、作業する農家の安全こそ最優先に考えなければならない。
万一の際の補償となる労災保険の特別加入者の割合も、基幹的農業従事者の1割程度と低い。特に従業員4人以下の事業所での労災加入は、暫定任意のまま、長年放置されている。スマート農業の推進は、現場の安全対策と両輪で進める必要がある。