政府は、食料・農業・農村基本法見直しの柱に「適正な価格形成」を据えた。だが、生産コストを価格に反映させるには、生産、加工、流通、小売りの合意が必要となるなど課題は多い。先進事例となるフランスの「エガリム法」に詳しい新山陽子・京都大学名誉教授に、価格形成の仕組み作りのポイントを聞いた。
適正な価格とは、農畜産物の生産コストを反映した価格。生産コストには家族労働報酬も含まれる。
日本では平時でも生産者が赤字となることが多い。酪農は数少ない黒字部門であるが、2000年前後に牛乳の小売価格がどんどん引き下げられ、06~08年の飼料価格の高騰に直面しても、小売りが応じないため乳価を上げられず、農水省の呼びかけでようやく引き上げた。米も赤字が続いている。
農家は最も大変なのだが、食品製造業者も似た状況にあるといわれ、その先の小売りも食品販売の利益は小さい。良質な食品の供給が難しくなれば消費者の不利益でもある。ただ、データで検証できる品目は限られているのが課題。まずはデータで互いの状況が分かるようにし、その上で対応を考えていく必要がある。
フランスのエガリムII法では、農業者と「最初の買い手」との取引で、生産コストを価格に反映できるようにした。書面契約を義務付け、契約書は農業者側から提示し、価格を決めて改定するための条項を書き入れる。そこに、品目別に公表される「生産コスト指標」を考慮するよう義務付けている。
生産コスト指標を作成するのは「専門職業間組織」。設立根拠法があり、生産者や流通、販売など各事業者の団体の連合組織であり、品目ごとに1組織が認可される。政策への意見もまとめている。エガリム法で生産コスト指標をつくる役割も定められた。日本ではフランスをモデルに設立されたJミルクが、これに当たる。
日本で全てをフランスのようにするのは難しいが、生産費の指標をつくり考慮することは必要。生産者が他産業並みの労働報酬を得られるようにするのが適正と考えられる。
【ポイント】
■適正な価格とは生産コストを反映した価格で、家族労働報酬も含む
■日本では生産コストを反映できず赤字の例も。食品関連業者も薄利
■フランスでは農業者と買い手の取引で「生産コスト指標」を考慮
にいやま・ようこ 1952年生まれ。京都大学名誉教授、「フードシステム研究所・京都」代表。著書に「フードシステムの構造と調整」(編著、昭和堂)など。