政府は、食料・農業・農村基本法見直しの柱に「適正な価格形成」を据えた。だが、生産コストを価格に反映させるには、生産、加工、流通、小売りの合意が必要となるなど課題は多い。先進事例となるフランスの「エガリム法」に詳しい新山陽子・京都大学名誉教授に、価格形成の仕組み作りのポイントを聞いた。
フランスのエガリムII法のように「生産コスト指標」を考慮した価格交渉を義務付ける場合、生産コスト指標の基になるデータの作成が課題となる。フランスは統計機関が充実し、農業省に属する機関や国立統計経済研究所が統計を作る。
日本では統計を担う政府の人員が削減されている。生産費については農水省が調査しているが、品目は米と穀物、牛乳、豚肉、牛肉に限られる。国の統計部門を充実させる必要がある。
フランスで統計に基づき指標をつくるのは、品目別に生産者や製造、販売事業者などの各団体でつくる「専門職業間組織」。課徴金を集めて大きな予算を持ち、専門知識がある職員を抱える。日本ではJミルク以外になく、それ以外では新設することになる。
同組織は価格形成以外でも、さまざまな課題を議論して意見をまとめる役割がある。政府が何か法制化するときなどには、必ず意見を聞かれる。こうした組織ができれば、生産者が困っている状況をもっと早く集約し政府に働きかけられるし、政府も実態が分からないということにはならないだろう。
適正な価格形成のためには、生産者と買い手の交渉で生産コストを考慮するのに加え、食品製造業者と小売業者の交渉も課題となる。食品製造業者が生産者からコストを考慮した価格で原材料を買い、それを製品価格に反映できなければ食品製造業者に負担がかかる。
フランスでは、同国特有の売り手が示す「一般販売条件書」を基に交渉するルールがあり、これに原材料価格に当たる部分の割合を示し、交渉から除外する規定を作った。ただ、現時点ではあまりうまく機能していないとみられる。
農業・食品界だけで対応できない問題に賃金の引き上げがある。生産コストを考慮すれば食品価格は上がり、賃金が伸び悩む市民にとっては買いづらくなる。市民も、正当な労働対価を得ることで良質な食品を買える。好循環を起こすのに賃上げは必須といえる。
【ポイント】
■「生産コスト指標」の基になるデータや統計情報の充実が課題
■品目ごとの「専門職業間組織」が生産コスト指標を作成
■食品製造業者と小売り間でも適正価格が必要、賃上げも必須
にいやま・ようこ 1952年生まれ。京都大学名誉教授、「フードシステム研究所・京都」代表。著書に「フードシステムの構造と調整」(編著、昭和堂)など。