政府は、食料・農業・農村基本法見直しの柱に「適正な価格形成」を据えた。だが、生産コストを価格に反映させるには、生産、加工、流通、小売りの合意が必要となるなど課題は多い。先進事例となるフランスの「エガリム法」に詳しい新山陽子・京都大学名誉教授に、価格形成の仕組み作りのポイントを聞いた。
適正な価格形成の実現には多くの課題があるが、独占禁止法との関係は最も難しい。価格は売り手と買い手の交渉で決まる。そこに何らかの規定を設けると、同法に抵触する可能性が生まれる。
同法では、交渉力の弱い農家がまとまれるよう農業協同組合の共販は例外的に認められている。これだけでは限界があるので、社会的に合意が得られる範囲の新たな方策を検討し、公正取引委員会の了解を得なければならない。
フランスの場合も、「競争法」との関係で仕組み作りに時間がかかった。生産者と買い手の書面契約や、契約時に生産コスト指標を考慮することの義務化は1997年のエガリム法に書き込もうとしたが、競争法との関係でできなかった。欧州農産物市場共通組織規則の改正が見通せ、2021年のエガリムII法でようやく実現した。
一方、先進的なフランスであっても対応は限定される。生産コスト指標をどの程度考慮するかは契約当事者が決める。少ししか考慮しない場合もあろうが、政府も専門職業間組織も知ることはできない。日本でも、仕組みを作ってできることには限りがあるだろう。
日本で法律などを作る際は、Jミルクが国の生産費調査を基にした生乳の生産費や輸送コストのデータを示し、乳価交渉で生かしている事例が足掛かりになる。豚肉や卵にも応用は可能とみられる。
日本ではフランスと異なり、卸売市場での価格形成についても検討の必要がある。エガリムII法は、その場で値段を決める市場での取引を対象としない。卸売市場での取引の割合が高くないこともある。
一方、日本の青果物は市場経由率が8割に上る。また、日本では、現物を前に値段を決めるのではない予約相対取引が増えており、仲卸の利益率の低さなどの問題を抱えている。卸売市場法などでルールを定めることの検討が必要であろう。(石川知世が担当しました)
【ポイント】
■価格交渉に影響を与える規定は、独占禁止法に抵触する可能性
■社会的な合意形成と公正取引委員会の了解が必要
■生乳取引が足掛かりに。卸売市場の取引ルール検討も
にいやま・ようこ 1952年生まれ。京都大学名誉教授、「フードシステム研究所・京都」代表。著書に「フードシステムの構造と調整」(編著、昭和堂)など。