「ひとまずは毎日の収入が確保できて安心した」。能登町の西出牧場の西出穣代表は、安堵(あんど)の表情を浮かべる。
乳用牛約50頭を飼養する同牧場は、1日700リットルの生乳を出荷していたが、地震による道路の損傷で出荷できずにいた。輸送ルートの回復に伴い、14日から出荷を再開した。
水不足などの影響を受け、乳量は通常より1割ほど少ない。地震で損傷した牛舎の建て替えなど課題も多いが、西出代表は「まずは乳質の回復に努めたい」と前を向く。
県のブランド和牛「能登牛」を1000頭飼養する能登牧場(能登町)は10日、地震後初めて去勢牛7頭を出荷した。15日の東京都中央卸売市場食肉市場でせりにかけられ、うち1頭が同日の去勢の最高値を付けた。
同牧場では、牛舎の亀裂や道の崩落が徐々に広がり、予断を許さない。平林将専務は「せりの結果は全国からの応援のおかげで本当にありがたい。厳しい中だが生産者全体が前を向けるよう盛り上げられれば」と話す。
「牛を引き取ってくれないか」
ただ、被災地では広い範囲で断水や道路の寸断が続く。多くの畜産農家はなお、牛に十分な餌や飲み水を与えられず、出荷再開も見通せない。
県の調査では、断水が続く県内の畜産農家は43戸。県酪農業協同組合によると、県内31戸のうち地震で集乳を中断したのは13戸で、21日時点で10戸が再開できていない。
「誰でもいいから命があるうちに牛を引き取ってくれないか」。珠洲市で乳用牛など約40頭を飼う坂本牧場の坂本正光さん(75)は疲れ切った表情で訴えた。地震による経営への打撃が大きく、廃業を検討している。
断水が続き、牛に十分な飲み水を与えられず、餌も通常の4分の1に減らしている。坂本さんは「日に日に衰弱していく牛を見るのは心が痛い」と話す。
「能登牛」100頭を飼養する柳田肉用牛生産組合(能登町)でも水と餌を十分に確保できていない。息絶える牛も出ており、駒寄正俊組合長は「電気も水もなく、子牛に人工乳があげられない。これ以上、死亡牛を増やしたくない」と訴える。