[論説]基本法改正の国会審議 国民の理解得る努力を
現行基本法が1999年に施行され、四半世紀ぶりの改正となる。この間、何がどう変わったのか。日本の食を支える農業従事者、農地はともに減り続け、歯止めがかからない。数次の基本計画で食料自給率を高める目標を掲げたものの、40%をしばらく維持するのが精いっぱいで、直近は38%で推移する。基本法の下で推進してきた農政が正しかったのか、力強さに欠けていたのか。踏み込んだ検証が国会の場でも必要だ。
2007、08年には「アグフレーション」と呼ばれた、世界的な穀物価格の高騰、食料危機を経験した。いま再び、ロシアのウクライナ侵攻を機に食料価格や生産資材価格が高騰。円安・日本の経済力低下が重なり、農業者・消費者の負担は増している。食料を海外に依存し過ぎた構造を改める必要がある。「国内の農業生産の増大を図ることを基本に」食料安全保障を確保すると基本法が掲げるのは、その通りであり、問われているのは実効性である。
しかし、政府はこの10年間、せきを切ったように、日豪経済連携協定(EPA)、環太平洋連携協定(TPP)、日欧EPA、日米貿易協定と農産物市場を海外に開放してきた。基本法も2000年からの世界貿易機関(WTO)交渉に備え、一定の自由化を想定していたはずだが、日本が受け入れた一連の関税引き下げは、その範囲に収まっているのか。基本法改正の審議でも、国境措置を大きく下げたことへの対応をしっかりと説明する必要がある。
食料を巡る状況の変化に加え、基本法改正の大きな要因となっているのが、地球規模の気候変動である。各国で災害級の異常気象が相次ぎ、いまや農産物輸出国でさえ安定供給を約束できない。先進7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)、経済開発協力機構(OECD)などの農相会合には常に米国も参加しているが、毎回主要議題になるのは食料安全保障である。
基本法改正の国会審議で最も大事なことは、政府が本気度を示すことだ。どのような施策を計画し、その効果を得るための、裏付けとなる十分な財源を確保すること。その説明が国民に届いていない。
改正は、将来にわたって食料安全保障を確保するためであり、そのためには国民の理解を得る努力が不可欠だ。国会審議を尽くしてほしい。