

郷土の美食を町の子どもに身近に感じてもらう目的だが、カツオは鮮度保持の難しい青魚。「黒潮町が頻繁に給食に出せるのは、加工施設があるから」だと町大方学校給食センター所長の中川めぐみさんが言った。
カツオを給食に提供してきたのは、11年連続で一本釣り漁獲高日本一の船団を擁する明神水産。本社は漁港のある同町佐賀地区にあり、1991年に加工施設を建て、わらで焼いたカツオのたたきなどを全国に出荷する。
同社経営企画副本部長の山崎太志さん(55)によると、カツオは零下50度の超低温庫で瞬時に冷凍保存される。「解凍すると、死後硬直が始まります。冷凍で命はなくなっても、肉体は“死んでいない”わけです」。常に新鮮なカツオが給食に提供される理由だ。
黒潮町は、内閣府が2012年に公表した南海トラフ巨大地震の被害想定で、国内で最も高い34・4メートルの津波が押し寄せるとされた。以来、町内に6基の津波避難タワーが建設され、佐賀地区には16年に日本一高い地上25メートルのタワーができた。
そのタワーが間近に立つ佐賀小中学校で4月下旬、カツオと大豆の揚げ煮が出た。小学校は各教室で、中学校は全生徒46人が食堂で一緒に配膳し、食べる。中学1年の伊與木斗眞さん(12)は「自宅でも週3回は食べる」ほどのカツオ好きだ。
町の給食にはカツオの他、マグロ、ブリ、シイラ、サメ、ひじきなどを使ったメニューもある。「海は時として牙をむくけれど、海の恵みで生活する地域。給食を通して、海との付き合い方も学んでほしい」。校長の清水幸賢さん(52)が町の教育方針を説明した。