「国は、望ましい農業構造の確立に当たっては、地域における協議に基づき、効率的かつ安定的な農業経営を営む者及びそれ以外の多様な農業者により農業生産活動が行われることで農業生産の基盤である農地の確保が図られるように配慮するものとする」(基本法改正案第26条第2項)
今後20年で農業人口は4分の1の30万人になる──。農水省は、こんな衝撃的な試算を示す。農地は「誰」が担うのか。日本農業が直面する最大の課題の一つが担い手不足だ。山口県北西部の長門市油谷地区。日本海を望む沿岸部には、かつて安倍晋三首相(当時)が「息をのむほど美しい」と評した棚田が広がる。
だが、2005年に2338人いた同市の基幹的農業従事者は20年に1093人と半減。65歳以上の割合は全国平均を10ポイント以上、上回る84%に達する。
この地で農業をして60年になる末永孝義さん(79)は棚田を横目に「観光で見に来る人はいるけど、農家の苦労は分からないだろう」とぼやいた。棚田を支えるのり面の傾斜はきつく、草刈りするのも一苦労だ。

「集落の農地は集落で守ろう」を合言葉に、油谷地区では「ゆや中畑」を含め七つの集落営農法人が設立されたが、高齢化はいや応なく進む。いったん退いた代表に再び就いた末永さん。「とにかく、人がいない」
組織化進むも「限界」 集落外部の力 必要に
「このままでは立ち行かなくなる」。山口県長門市油谷地区の各法人では、高齢化で作業を担う中核人材が減る一方、任される農地面積は増え、適期の防除もままならなくなっていた。
集落の枠を越えて話し合いを重ね、2017年7月に4法人とJA長門大津(現JA山口県)が出資する連合体組織、(株)長門西を立ち上げた。18年4月には、地元出身で県立農業大学校を卒業した花岡輝彦さん(29)を正社員として雇用し、各法人から耕うんや収穫といった機械を使う基幹作業を一手に請け負う。今ではドローン防除の受託面積は270ヘクタールに及び、共通ブランドの特別栽培米「農家の自信作」の育苗も手がける。
連合体設立を機に若手が入り、息を吹き返した集落営農。それでも農事組合法人「河原」代表で、長門西社長の金本健さん(74)は、年々増える農地面積に「これ以上、農地を引き受けられない」と危機感を強くする。
昨年からは新事業として、各法人が請け負えない農地に利用権を設定し、比較的手間がかからない稲発酵粗飼料(WCS)の栽培を開始。基幹作業だけでなくあぜの草刈りの受託も始めた。「今のうちに仕組みを作って将来に備えるしかない」。農地を次代につなぐための模索が続く。

改正案では担い手以外の「多様な農業者」の役割も盛り込む。農業政策に詳しい東京大学の安藤光義教授は、集落営農の法人化など「これまでの経営体育成路線だけでは限界にきている」と指摘。人口減に対応するため「外部人材の活用など集落完結型でない形で、どう集落の姿を描いていくかという総合的な農業・農村戦略が必要だ」とみる。(大森基晶)