「国は、食料の価格の形成に当たり食料システムの関係者により食料の持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるよう、食料システムの関係者による食料の持続的な供給の必要性に対する理解の増進及びこれらの合理的な費用の明確化の促進その他必要な施策を講ずるものとする。」(改正案第23条)
3万2396品目──。食品メーカーなど主要195社が2023年に値上げした食品の品目数だ(帝国データバンク調査)。原材料価格や光熱費などの高騰を反映させた「記録的な値上げラッシュ」(同社)の一方で、国産農産物の価格転嫁は遅れている。農産物の価格転嫁で先進的な取り組みが、ピーマン主力産地・宮崎県のJA宮崎経済連による「燃料サーチャージ」だ。ブランドピーマンの契約販売分で、再生産価格を設定し、燃油代を中心に生産コストの短期的な変動分を一定に吸収する。
今年で16年目を迎える制度は、全国の市場卸31社との契約販売で導入している。園芸部販売流通課の川口正剛課長は「生産経費の急激な変化を反映でき、農家の安心材料になる」と意義を強調する。
制度では、肥料や種苗、施設更新費などを考慮して、農家がピーマンを再生産できる「再生産価格」を設定。24年産では、重油が1リットル当たり96円以上130円未満の場合、再生産価格は1キロ598円を基準にし、協力卸へのピーマン販売価格の建値とする。重油価格が基準を上回ると販売価格を増額、下回ると減額させる。燃油以外の農薬や肥料などが高止まりしていることを受けて、再生産価格はこの5年で1割上昇したという。
JA宮崎経済連の「燃料サーチャージ」は、価格転嫁のモデル的な取り組みだが、制度の対象となる契約数量はブランドピーマン「グリーンザウルス」1万3000トンのうち、18%程度にとどまる。同経済連は2024年産から、出荷量の多い時期に契約数量を上乗せする取り組みを一部市場を相手に始め、農家の手取り確保を図る。 同経済連がピーマンでサーチャージ制度を導入できた理由は、生産費に占める燃油代の割合が高いためコスト変動の状況を明示しやすい、相場が比較的安定している──からだ。他の品目での導入については、「キュウリやトマトなどは天候などで需給バランスが崩れやすく相場変動が激しい」(経済連の川口正剛課長)点が課題だ。
コスト指標 明示が鍵 消費者の理解醸成も
農水省の農業物価統計によると、23年の生産資材全体の価格指数は20年対比で21・3%上昇。一方、農産物全体の価格指数は同7・8%の上昇にとどまる。JA全中は3月の臨時総会の特別決議で、国産農畜産物への価格転嫁が進まない状況を指摘し、「多くの地域で営農が継続できるかどうかという危機的な状況にまで立ち至っている」と強調した。 政府も動き出してはいる。農水省は、生産コストを反映した価格形成の仕組みづくりに向けて「コスト指標」の作成が必要とみる。同省の協議会では、牛乳と納豆・豆腐の作業部会で指標づくりを検討している。 単に価格を上げるだけでは、国産の需要が減り、安価な輸入品の流入を招くとの指摘も上がる。基本法の改正論議などを通じて、消費者の理解をどう得ていくかも鍵だ。 基本法改正案では、持続的に食料を生産・供給するため、「合理的な費用が考慮」された価格形成に、必要な施策を講じるとした。これをどう実現するのか、政府は難題に立ち向かうことになる。