「農村については、農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれていることにより、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしていることに鑑み、農村の人口の減少その他の農村をめぐる情勢の変化が生ずる状況においても、地域社会が維持され、農業の有する食料その他の農産物の供給の機能および多面的機能が適切かつ十分に発揮されるよう、農業の生産条件の整備および生活環境の整備その他の福祉の向上により、その振興が図られなければならない」(基本法改正案第6条)
高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)が29・2%に達した日本(2024年3月1日現在、総務省人口推計)。その影響は地方でより顕在化している。農村をどう維持していくのか、問われている。棚田が連なる標高200メートル前後の山間地、岡山県赤磐市仁美地区。NPO法人まちづくり夢百笑・理事の東川雅弘さん(68)が、冷蔵機能付き商品棚を荷台に取り付けた軽トラックで、山腹にある民家に乗りつけた。
「来たよー」と東川さんが大声で呼ぶと、「はーい」と住民の森光敦子さん(85)がつえを手に出てきた。7年前に自動車運転免許を返納した1人暮らしの森光さんにとって、東川さんの移動販売車は食をつなぐ生命線だ。
30年前は1888人が居住し、65歳以上が3割だった地区は現在、955人と半減、高齢化率も6割に迫る。人口減で商店は徐々に消え、最後まで踏みとどまったJA直売所も13年3月に閉店した。日用品や食料を売る商店「夢百笑」を住民が開業したのはその2カ月後。現在、1日50食の弁当を配達し、移動販売も週2回行う。スタッフ15人の平均年齢は70代。“消えゆく公共”をボランティアで何とか支える。
国は人口減対策として、生活サービス機能や人口を市街地に集約する「コンパクトシティ政策」を進める。しかし、森光さんは「先祖代々の畑もお墓も、親しんだ近所との付き合いも全部、手放せない」と、住民の思いを代弁するように言った。
人口減への対応急務 自・共助にも限界が
岡山県赤磐市仁美地域の商店「夢百笑」は、平均年齢70代のボランティア15人が弁当調理や配達を担い、住民の食をつなぐ。運営するNPO法人まちづくり夢百笑の難波幸子さん(75)が「給料を出せないから、なかなか働き手がいなくて」とため息をついた。 夢百笑は店舗を自力で営業し、弁当配達と移動販売は市からの助成で運営する。収入のほとんどは食材の仕入れ代や光熱費、ガソリン代など必要経費として消え、人件費に回す余裕がない。法人の東川雅弘理事が「現状を維持するだけでも難しい」と打ち明けた。
夢百笑がなくなれば、住民は車で15分かかる市街地に行かなければならない。市街地とを結ぶ民間の路線バスは「採算が取れない」として4月から1日1便にし、市は隣接3市町と共同運行する公営バスの増便で補う。だが、仁美地区と同様に公営バスの増便が必要な地域は増えており、本年度の予算は500万円。市の担当者は「赤字が膨らむ一方だ」と言った。
政令市では「域内格差」が生まれている。岡山市西部の農村地帯、足守地区は20年前、バス路線が大幅に縮小。町内会で作る生活交通を守る会などが「生活バス」の運行に乗り出し、年に延べ6000人の移動を守る。
経費の8割は市の助成だが、残りは運賃と住民の寄付に頼る。会代表の坪井茂さん(76)は「国の助成は自治体間を結ぶ場合だけ。制度が現実に対応できていない」と思う。
国立社会保障・人口問題研究所は2050年の地域別将来人口を推計し、11県で20年より3割以上減り、25道県で高齢化率が4割を超えるとした。政府は食料・農業・農村基本法改正案に、人口減が進む状況でも「地域社会の維持」が必要だと明記したが、その有効策はまだ見えない。