
「アフリカ豚熱 そこまできています」──。農水省が今年制作した、養豚生産者向けの啓発資料では、感染豚の生々しい写真を載せて危機意識を高める。アフリカ豚熱はアジアでは2018年に中国で初確認。その後アジア各国に広がり、東アジアで未発生の国・地域は日本と台湾だけとなった。有効なワクチンがなく、まん延防止には、物理的な封じ込めしか方策がない。
日本まで50キロと近い釜山では、23年12月~24年4月に25件、野生イノシシでの発生が確認されており、同省は「かつてないほど侵入リスクが高まっている。国内に入れば畜産業が危機的になる」(消費・安全局動物衛生課)と警戒を呼びかける。
同省は野生イノシシでの発生を想定し今年3月、侵入状況把握や感染拡大防止のための基本方針を公表した。同省はこの方針を基に、各県に防疫演習の計画策定を指示。発生時の対応をシミュレーションする「机上演習」を本年度中に実施するよう呼びかけている。
机上・実地のいずれかの演習は昨年度に5県、本年度は5月末までに3県が実施した。演習費用には国の補助を活用できる。

豚の生産額で全国の3割を占める九州では、5月下旬の2日間、7県の家畜衛生や鳥獣害の担当者ら約60人が佐賀県武雄市の山林に集まり、実地研修を行った。農研機構畜産研究部門の平田滋樹上級研究員から、野生イノシシの生態や痕跡調査、感染個体の埋却法などを学んだ。電気柵メーカーも参加し、埋却地を最新のスマート電気柵で囲む方法を実演するなど、知識と技術を共有した。
平田研究員は「死体発見時に適切に処理すれば、まん延を防げる」と研修の意義を強調した。