フリマアプリ上で無断増殖の苗が売られている問題を巡っては、本紙「農家の特報班」が2023年6月に違法苗が多数取引されている実態を報道。農研機構は報道を受けて、同年8月からフリマアプリの監視を強化していた。農研機構が警視庁に違法苗の現物調査をした結果などを提供したことで、一斉摘発につながった。
警視庁によると、岐阜県養老町の会社員、近藤信宏容疑者(64)ら2人を逮捕した。近藤容疑者は昨年10月、「イチゴポット6苗1800円」などとインターネットに書き込んで無断で出品していた疑い。愛知県稲沢市と静岡県焼津市の農業者2人を含む10人も書類送検した。
種苗法は、登録品種を許可なく増殖したり譲渡したりといった、育成者の権利を侵害する行為を禁じている。「桃薫」は、桃のような香りが特徴のイチゴで、農研機構が2011年に品種登録した。
農水省によると、フリマアプリは匿名で手軽に出品できるため、違法な種苗販売が行われやすい。権利者に利益が還元されず新品種の開発が停滞したり、海外流出につながったりと、農業への悪影響も大きいとする。
同省知的財産課は「違反事例は放置せずに対応していくことが抑止効果を生む」とし、来年度予算で権利者によるオンライン取引の監視を支援する方針だ。さらに、違法が疑われる出品の取り下げを申請しやすくなるよう、フリマアプリの運営会社と協議していきたいとする。
種苗法違反は、被害者が訴えなくても摘発できる非親告罪だが、摘発される例が少ない。種苗の専門知識が十分でない警察単独では、違反行為かどうか判断が難しいためだ。摘発につなげるためには、権利者も積極的に違反行為に目を光らせる必要があるが、無数にある疑わしい苗の出品をチェックするのは容易でなく、対応が後手に回っていた。
今回の一斉摘発の背景には、農研機構がこうした課題を受け止め、2023年8月からフリマアプリの監視を強化していたことがある。フリマアプリで出品されている「桃薫」の苗を農研機構が購入し、DNAを調べて警視庁に情報提供するなど、権利者として積極的に違反を訴えたことが奏功した。
無断増殖した苗が出回ると、権利者は正当な利益を得られない。苗が病害虫に感染している可能性があり、病害を自身の農地だけでなく、近隣に拡散させる恐れもある。また、誰でも購入できるため、海外流出につながるリスクもある。農業への悪影響を防ぐために、都道府県や種苗会社などもより積極的に違反行為を取り締まり、一層の摘発につながることを期待したい。
(金子祥也)