農水省によると、学校給食で有機農産物を使った給食を提供した自治体は、2022年度末の時点で193市町村。取り組む期間は1日から数週間、数カ月程度の自治体が多い。有機農産物は生産量が少なく、調達が難しいためだ。同省は「地域の有機農家と相談し、調達可能な期間・品目で取り組むのが基本」(農業環境対策課)と説明する。
品川区の農地面積は統計データがないが、ほぼゼロとみられる。地域外の有機農家と契約するか、市場流通するものを仕入れるしかなく、ハードルが高い。仕入れについて同区に質問したが「具体化の内容・手法等については調整中」(戦略広報課)との回答だった。
そこで、学校給食に使用する野菜の量を聞き、有機野菜に強みを持つ仲卸業者に見解を聞いてみた。同区によると、区内の小中学校の児童、生徒、教職員を合わせた1日の提供食数は約2万5000。タマネギやニンジンなど10品目を1カ月に約51トン使っている。各品目の使用量を仲卸業者に伝えると「通年でこれだけの数は集まらない」と断言した。
同区は23年から給食費を無償化。有機野菜への切り替えによる食材費の増額分は同区が負担する。同区の試算では、食材費が1食当たり「12円」増える想定で25年度に2827万円の予算を準備した。
「12円」という金額はどのように出したのか。「24年の学校の野菜購入価格と市販の有機・特栽野菜の価格を比較し、約1・2倍と試算した」(同課)という。同区の給食は1食当たり60円の野菜を使用しており、1・2倍した72円で材料を調達する目算だ。

農水省の生鮮野菜価格動向調査によると、同区が挙げた9品目(もやしは調査対象外)の有機と慣行の価格差は1・4~1・9倍。有機より比較的安い特栽でもダイコン、ネギ、ジャガイモを除く6品目が1・3~1・4倍だった。
24年4月からオーガニック給食を提供している大阪府泉佐野市に、参考として予算感を聞いた。同市は学校給食に使う食材の50%を有機に切り替えた。1日の提供食数は7900で約3000万円の予算を準備している。品川区の提供食数は同市の約3倍、有機食材の割合も高い。25年度は半年間の提供とはいえ、同市を大きく下回る予算感だ。仲卸業者は有機より割安な特栽を使うことを加味しても「金額的に無理がある」とみる。
有機農業に詳しい千葉商科大学の小口広太准教授は、大都市で学校給食に有機野菜の提供を掲げる自治体が出てきたことは歓迎しつつも、「全量切り替えは納入業者や栄養士、調理員の負担が大きい」と指摘。関係者と議論を深めた上で「無理のない範囲で提供していくべきではないか」との見解を示す。
(金子祥也)