秋田県・熊谷賢さん
米価の低迷に不安
「(高い価格が)米離れにつながるのは良くないから備蓄米の販売には納得している。でも、心配もある」秋田県横手市の米農家、熊谷賢さん(52)は複雑な思いを明かす。米75ヘクタール、エダマメなど10ヘクタールを栽培する農業法人を経営。これまでの米価は、再生産価格を割り込み、経営は厳しかった。資金繰りに悩み、娘の学資保険を解約して運転資金に充てたこともあった。販路拡大を目指し米穀店にアプローチするも冷たくあしらわれた、苦い経験もある。
懸念するのは今後の需給緩和による米価の低迷だ。「もし米価格が一昨年並みに戻れば、農家は米を作らなくなり、結果的にまた米不足になるのではないか」と指摘する。
佐賀県・白浜学さん、初美さん
消費者も背景知って

九州の穀倉地帯・佐賀県白石町。白浜学さん(44)と初美さん(43)は32ヘクタールで米と大豆、麦を栽培。1ヘクタールで花も作る。
学さんも、随意契約の備蓄米販売には賛成の立場だ。ただ、交流サイト(SNS)やマスメディアにあふれる、銘柄米にも同水準の価格を求める意見や根拠のないJA批判などが、残念でならない。「消費者には価格だけでなく、その背景に思いをはせてほしい」
2年前に亡くなった学さんの父は、家族を養うために日中は農作業、夜はアルバイトをするなど、苦労を重ねていた。花き栽培で経営を立て直し、25年前に学さんは後を継いだ。
学さんの就農時、地区には30人の米農家がいたが、今は4分の1にまで減った。大規模農家や農業法人だけでは、地域は成り立たないことを実感している。「規模拡大にも限界がある。水路の維持管理やポンプの開閉などは中小の農家がいてこそ」と強調する。
学さんの幼なじみで町農業者係長の橋本丈英さん(45)も同じ思いで、「米価の低迷時に農村で何が起きていたのか、消費者にはもっと目を向けてほしい」と願う。
結婚して町に移住した東京出身の初美さんは「米が適正価格で販売され、生活が成り立てば、農業をやりたいという若い人が増えてくるはず」と力を込める。
農家は安心して米を作り続けられる政策を求めている。
(尾原浩子、藤平樹)