仙台市の農事組合法人・仙台イーストカントリーは、東日本大震災の津波による被害をいち早く乗り越え、地域農業の復興をけん引してきた。農地を80ヘクタールまで集約し、ニーズや作期の異なる10品種以上の水稲を生産。加工施設やレストランなど6次産業化も進めて収益性を高め、震災で職を失った女性の雇用の場もつくる。
水稲は、宮城県の主力品種「ひとめぼれ」に加え「つや姫」「ミルキークイーン」「金のいぶき」などを栽培する。大規模化に対応して作業を分散させる必要もあるが、10以上の多品種で業務用や家庭用などさまざまなニーズに応える。震災後に整備された1ヘクタールの大規模区画を生かした直播(ちょくは)栽培、水位センサーによる遠隔管理など、省力化も進める。
6次産業化の取り組みは、米や転作大豆と並ぶ収益の柱となっている。加工施設では、栽培した大豆を使ったみそやしそ巻き、もち米を使ったずんだ餅などの総菜、弁当を製造し、地元のスーパーや観光農園などに納入。農家レストランではおにぎりやカレーライスなどを提供する。
加工部門を担う佐々木千賀子さん(68)は「ご飯をおなかいっぱい食べてもらい、ファンになってもらえる場所を目指している」と話す。消費者の「他のお米も食べてみたい」とのニーズを生み出し、対応できるだけの幅広い品種をそろえる。
11年3月の東日本大震災の津波で、市東部の沿岸部に位置する法人は、経営していた農地約60ヘクタールの3分の2が被災し、農機具のほとんどが使えなくなった。「津波の犠牲となった仲間のためにも、この地で農業を続けていこう」。当初は解散も視野に入ったが、代表理事の佐々木均さん(68)は早期の営農再開を決意。同年6月には16ヘクタールで水稲の作付けを再開した。
加工施設や農家レストランは「震災で職を失った女性に仕事を」(均さん)との思いもあり、いずれも13年に立ち上げた。千賀子さんもその一人だ。シフト制など、柔軟で女性が働きやすい環境を整備。設立後、退職者が一人もいないのが、法人の誇りとなっている。
震災から今年で10年。「天皇杯も含め、さまざまな人に支えられたからやってこられた」と均さん。「50年、100年先にも仙台平野の農業を守っていきたい」と、30、40代の若手の育成も進める。
経営概況
08年設立。構成員12人。パート14人(加工場や農家レストランを担当)。約80ヘクタールで早生から晩生まで水稲10品種以上を栽培する他、大豆も栽培。稲わらの収集・販売も行う。おにぎり・総菜類は仙台市を中心に14カ所で販売している。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=GM3LytzSpy8