[論説]集落営農とインボイス 地域一体で対応検討を
10月から、消費税の仕入税額控除にインボイスが必要となった。同控除は、売り上げで受け取った消費税額から、仕入れで支払った消費税額を差し引いて納める仕組みのことだ。しかし、年間売上高1000万円以下の免税事業者は、課税事業者にならないとインボイスを発行できない。
集落営農法人の組織形態で多い農事組合法人は、労務の対価を、組合員の農家が働いた時間や内容に応じた従事分量配当で支払える。従事分量配当は給与と異なり、仕入税額控除ができる。この結果、農事組合法人の多くは消費税の納付額を抑えられ、還付を受ける場合もあった。
だがインボイス制度の開始後、同法人に所属する組合員の大半を占める免税事業者への従事分量配当は、仕入税額控除ができなくなる。法人にとっては消費税の納付額の増加や還付額の減少につながり、痛手となる。群馬県のある法人は還付額が最大400万円超減ると試算された。日本農業新聞が集落営農法人などに行った調査では、インボイス制度が「経営に影響がある」との回答が45%に上った。
影響緩和策として農水省は①組合員が課税事業者になる②従事分量配当の水準見直し③給与制に移行④簡易課税制度を選択⑤高収益作物や加工による収益力向上⑥近隣法人との連携・合併によるコスト低減─などの選択肢を提示。免税事業者への支払いも一定割合を仕入税額控除できる6年間の経過措置期間中に対応を検討するよう促す。ただ、①や②は法人にはメリットがあるが、組合員の税負担が増えたり、収入が減ったりするなど、どの選択肢でも影響をゼロにするのは困難だ。
一方、組合員の高齢化や後継者不足、主要品目の米の需要減など、集落営農は他にも課題を抱える。⑤や⑥に取り組むのは難しいが、これらの課題にも有効となる可能性がある。インボイス制度への対応に限らず、この機会に、各組織で将来について改めて話し合うべきではないか。
インボイス制度は複雑で、話し合いには十分な理解が欠かせない。群馬県のJA佐波伊勢崎は、管内の農事組合法人に納税額の試算を示し、個別相談も始める。集落営農法人の経営危機は、地域農業の危機につながりかねない。こうした地域の関係機関も一体となった検討で、各組織の最適解を見つけてほしい。