[論説]激変する気象 命を守る行動最優先に
梅雨が明けない東北では雨が続く。山形県では25日、線状降水帯が発生し、命の危険が迫っているとして秋田、山形両県の一部では「緊急安全確保」が発表された。気象庁は5月末から、線状降水帯が発生する半日前から呼びかける運用を始めたが、今回は予報を出せなかった。重大な災害が起こる危険性を知らせる山形県への「大雨特別警報」も一部地域で河川が氾濫したり、農地が冠水したりした後に発表され、後手に回った。会見した同庁担当者は「今回の線状降水帯は降雨範囲がかなり狭く、現状の観測体制では予想できない」と説明、世界有数の観測・予報技術を持つ同庁の限界がうかがえた。
降れば避難が必要なほどの豪雨、晴れれば熱中症が相次ぐ酷暑──。想定外の災害が頻発する。同庁は「極端現象」と呼び、監視を強めている。1時間当たり50ミリ以上の雨が降る回数は、アメダスの運用を始めた1975年ごろは年間200回程度だったが、2020年ごろには同300回に増えた。100ミリ以上の雨が降る回数も、同2回程度から5回程度に増えている。
温暖化が続けば海水温の上昇は続き、今後も災害級の大雨が増えることが見込まれ、河川の氾濫や土砂災害が起きやすくなっている。治水対策の強化はもちろん、高台への移転を含めて命を守る対策を最優先に考えなければならない。松山市の中心部では12日未明、避難指示が出る前に土砂が崩落し、就寝中だった90~40代の一家3人が犠牲となった。気象災害から身を守るための備え、対策が欠かせない。
行政任せにせず、自らの命を守る行動も、日頃から考えておかねばならない。静岡大学防災総合センターの牛山素行教授が、近年の風水害による人的被害の特徴を調べたところ、水田や農地、用水路の見回りなど、自らの意志で危険な場所に接近したことで災害に巻き込まれる「能動的犠牲者」が死者全体の2割以上を占めたことが分かった。
自宅周辺に土のうを積んだり、水路の詰まりを除去したりする「個人的防災行動」による犠牲も少なくない。
河川や農地、水路、作物が大丈夫か、気になるのは分かる。だが、肝心の命が奪われてしまえば元も子もない。酷暑下の作業は熱中症の危険も伴う。まずは、命を守る行動を最優先しよう。