[論説]財政審の建議 農家の経営安定に逆行
建議がやり玉に挙げたのは、転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金の見直しだ。あからさまに「財政上の持続可能性」を訴え、予算膨張にくぎを刺した。これまでも飼料用米の一般品種の交付単価引き下げや、交付対象水田を減らす畑地化促進を実現させてきたが、今回はこれに加えて対象品目を問わず交付金単価の見直しに言及。麦や大豆は、生産性の低さを問題視し、単位収量基準の設定も求めた。
だが、需要が減る米に代えて麦や大豆、飼料作物などの作付けが広がってきたのは生産現場の努力の結果だ。予算が膨らむからといって単価を下げるのは、はしごを外すのに等しい。交付単価を堅持し、生産性向上に取り組む農家に一層の支援をすべきだ。
生産資材が高騰し、気候変動で災害が頻発する昨今、ただでさえ農業経営のリスクは増大している。同交付金をはじめ、農家を支える経営安定対策こそ、万全な政策運営が求められる。安易な見直しを繰り返せば、かえって経営のリスク要因となりかねず、財務省が重視する大規模経営ほど大きな影響を受ける。
建議は、農家を支えるセーフティーネット(安全網)対策にも切り込んだ。収入保険と他の制度との重複を問題視し、将来的な一元化を提起した。特に、米の収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)や野菜価格安定制度は、産地による過剰生産が支払い増を招いていると主張するが、米の需要に応じた生産や野菜の計画出荷の取り組みに対する認識不足と指摘せざるを得ない。
農水省は、収入保険と野菜価格安定制度との同時利用の打ち切りを検討しているが、同制度が持つ需給調整機能が揺らがないよう、産地の意向を踏まえた対応を求めたい。
建議では大規模、法人経営への施策集中を訴えた。親元就農や中小規模の農家の役割を軽視した文言もあり、看過できない。食料・農業・農村基本法の見直しに向け、政府が6月に決めた「新たな展開方向」では「経営安定対策の充実」と「多様な農業人材の育成・確保」を掲げている。建議の内容はこれに反する。
必要なのは、安易な予算削減でも補正予算での場当たり的な対応でもない。食料安保に欠かせない予算を、当初予算からしっかり確保し、多様な農家が安心して経営を続けられるようにすることだ。