[論説]出前授業の普及 子らに届け農業の価値
政府は、2021年度から5年間を目標とする第4次食育推進計画に「さまざまな体験活動や適切な情報発信を通じて、生産者に対する感謝の念や理解が深まっていくよう配慮した施策を推進する」と明記した。地元の農林水産物や被災地の産品など自分が応援したい産地や農家を意識して買い求める国民を増やすことも目標に掲げる。
出前授業はこうした理念に沿っており、農家の声を直接、子どもらに届ける大切な取り組みだ。子どもや若者に人気のあるタレントを起用すれば一定の波及効果は見込めるが、金銭的な負担は大きい。一方で出前授業は、子どもたちと農家が同じ目線でやり取りできるのが強みだ。
参考にしたいのは、本年度から小学5年生を対象とした独自の出張授業プログラムを始めたJAグループ茨城の取り組みだ。JA茨城県中央会は全職員が、食の検定協会主催の食生活や食料・農業に関する知識を問う検定を受験し、「食農3級」を取得した。
教壇に立って、同県の農産物や地産地消に関して理解を深める授業を行う。学校の要望に応じ、内容を簡単に変更できるテキストを使う。授業の進め方のシナリオや解説動画も作成し、職員の負担を軽減している。同中央会が期待するのは、授業を受けた児童が成人し、農業の応援者になることだ。年度内に28クラス、716人の児童に出前授業をする計画だ。子どもたちのしなやかな心に、農の種をまくJAならではの取り組みで全国に広げたい。
東京都内では都心の小・中学校を対象に、東京の農産物を使った学校給食と農家の出前授業を合わせて提供する。JA東京中央会が教材などを用意し、JA東京青壮年組織協議会(JA都青協)部員が講師を務める。農家から学び、食べ物の正しい知識や健全な食習慣を身に付ける点でも意義ある取り組みだ。
日本農業を取り巻く環境は転換点にある。世界各地で紛争が相次ぎ、食料の重要性は増している。一方で生産資材価格は高騰し、それに伴う価格転嫁の在り方など難題は山積する。
国民一人一人が、自分ごととして食と農業を捉え、国産を選んで応援する機運を高めたい。子どもたちが農業に関心を持つ「入り口」となる出前授業には大きな意義がある。国を挙げて推進しよう。