[論説]農業普及事業 課題多様化 体制強めよ
全国農業改良普及支援協会などが開いた農業普及活動高度化全国研究大会では、全国から選ばれた普及員9人が、地域農業の課題解決に向けた活動事例を発表した。農家の高齢化で地域農業の維持が難しくなる中、いかに担い手を育てて規模を拡大し産地を守るかがテーマとなった。
最高位の農水大臣賞を受賞した鹿児島県大島支庁の農政普及課は、奄美大島へ単身で移住する新規就農者の増加に着目。従来の大木ではなく、低樹高密植栽培をタンカンで導入し、30~50アールの小規模経営でも成り立つ栽培モデルを作り上げた。大胆な戦略を実行に移すには、関係機関の協力と役割分担、的確な指導が欠かせない。
愛知県の西三河農林水産事務所農業改良普及課はイチゴ栽培の指導に、ベテラン農家のグループ制を取り入れた。指導に当たる農家は1週間で交代するため、研修内容を平準化しようと受け入れマニュアルや作業動画を作成。指導内容を毎週割り振る徹底ぶりだ。手間をかけながら、就農支援へ細心の工夫を凝らしていることが分かる。
規模拡大へ多角的な対応も求められている。大分県の豊肥振興局生産流通部は、ネギの増反を希望する農家が45%に上ることを受け、農業委員会などと連携して地域を回り110ヘクタールの作付け農地を確保。苗の供給体制を整え、農福連携やコントラクター(作業受託組織)の育成も行った。
人口減少で、人材の確保はどこも頭が痛い問題である。さらに近年の病害虫の増加、激しさを増す気候変動、スマート農業の進展、みどり戦略など、農業を取り巻く状況は大きく変化し、新たな対応が次々と求められる。
仕事の範囲は増える一方だが、普及指導員の減少は続いている。農水省によると2021年度は全国で6187人と10年で15%減少し、ここ3年も毎年1%ずつ減っている。年齢別では56~60歳が全体の25%を占め、大量退職が目前に迫る。ベテランの技術、地域をまとめる力などは貴重であり、若い指導員にどう伝承するか、大きな課題となっている。底上げが必要だ。
普及指導員は、JAの営農指導員と共に地域農業にとって欠かせないけん引役だ。農業振興を支える人材の育成へ、政府はしっかりと予算措置をすべきである。