[論説]エンゲル係数異常高 所得再分配議論始めよ
エンゲル係数は、ドイツの統計学者、エルンスト・エンゲル(1821~96年)が経験則から導き出した経済指標。人が生きるために必要な食料の量は基本的には変わらない。このため、この数値の高低が、生活水準の物差しになるという考え方だ。
日本では終戦直後の1946年に66・4%だったが、戦後の復興と高度経済成長とともに低下。90年代後半から2013年までは23%台で安定した。その後じわじわと上がり始め、コロナ禍を経て今年1~10月の平均は27・5%。調査方法の変更などもあり単純比較はできないが、1983年以来、40年ぶりの水準となっている。
最大の要因は、家計収入の伸び悩みにある。今年10月の家計支出(2人以上世帯)は13年同月比3・9%増の30万1974円にとどまる。これに対して食料支出は同22・4%増の8万3302円となり、エンゲル係数を押し上げた。中でも、年間収入200万円未満の低所得層の状況は深刻だ。今年10月のエンゲル係数は38・8%に達している。
政府は、今回の経済対策で1人当たり4万円の所得・住民税の定率減税や、住民税非課税世帯への10万円給付、電気やガス、ガソリン代への補助金延長などを実施し、家計負担を軽減する。だが、裏付けとなる23年度補正予算は7割近くを新規国債の発行で賄うため、対策の持続性への疑問は拭えない。
政府は食料・農業・農村基本法見直しの目玉の一つに、農畜産物の適正な価格形成を打ち出した。資材高騰が長引き、農畜産物への価格転嫁が追い付かない中、農業者の期待は大きい。岸田文雄首相は国会審議で「消費者の理解を前提とし、わが国の実態に即した価格形成の仕組みづくりを進めたい」と述べた。消費者の理解を得るためには、価格上昇を受け入れる家計の存在が欠かせない。
政府はこの40年間、所得税の最高税率を大きく引き下げるなど、所得が高ければ高いほど高い税率を課し、低ければ低いほど低い税率を課す「累進課税」を緩和してきた。だが、今回のエンゲル係数の異常高は、その見直しの必要性を突き付けている。同じく実効税率が大きく引き下げられてきた法人税の在り方とも合わせて、食料・農業・農村政策の観点からも所得再分配の議論が求められている。