[論説]避難生活の長期化 心と体のケアを重点に
石川県内の避難者は1万2000人を超え、断水は2万3000戸に及ぶ。いまだに停電が続いている地区もある。仮設住宅の着工は始まったが、目標の4000戸に対して申し込みは7000戸を超え建設は追い付かない。ライフラインの復旧が遅れ、生活の見通しも定まらない中、心身の不調を抱えている人は少なくない。
内閣府が東日本大震災後にまとめた、被災者のこころのケアガイドラインでは、こうした不慣れな日常生活に起因するものを「社会環境ストレス」と定義している。
トラウマ(心的外傷)も表面化する。地震の揺れや建物の倒壊、津波などの体感や目撃、近親者や友人の死傷などに起因するものだ。こうしたストレスを長期間抱えていると「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」が懸念される。自分の意志とは無関係に、恐怖や無力感にさいなまれる病気で、慢性化すると日常生活や仕事にも支障が出てくる。
大事なことは、周囲の人が「眠れない、不安が続くといった心理的変化は誰でも起こり得るもので、時間と共に回復する。つらい時は専門家に相談してほしい」と伝えることだ。自分に何が起きているのかを理解すれば、被災者は安心感を取り戻せる。
心の健康を保つには、被災者自身が「コミュニティーに属している」という実感を持つことも重要だ。具体的には、被災者同士が自発的に集まってお茶を飲みながら、ほっとできる空間をつくったり、地域のかわら版や避難所だよりを発行したりして情報を共有する方法がある。2004年の新潟県中越地震の際には、体を使う農作業が、被災者間の貴重なコミュニケーションの場となった。
農業再開へ石川県珠洲市の米農家は、大豆や野菜類への一時的な切り替えを検討。減収を補完しようと、パートタイムに出ることも考え始めた。輪島市の農家は、陸稲のように米を栽培する方法を検討する。仕事を再開することが生きる力につながる。復旧の動きを全国から応援したい。
農水省は県内JAなど6カ所に職員を常駐させ、被災農家を支援する相談窓口を設置、県内JAでは健康教室なども徐々に再開している。
避難が長期化する中で、息の長い支援と、被災者を孤立させない心と体のケアが一層、重要となる。