[論説]補助金要件に環境配慮 農業現場への周知急げ
地球温暖化を防ぎ、持続可能な農業を実現するには、海外の資源を奪い合うのではなく、足元の資源を活用し、環境に負荷をかけない栽培方法が求められている。日本は、50年までに二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる。農水省が4月から導入する「環境負荷低減に向けたクロスコンプライアンス」制度もその一環だ。
クロスコンプライアンスとは難解な言葉だが、米国で1970年代に導入された。政府の支援を受ける代わりに、農家が決められた条件を守ることを指す。土壌侵食を防ぎ農地を保全することが目的で、農家は休耕などの条件を守らなければ補助金を受け取れない仕組みとなっている。
欧州連合(EU)でも80年代から、農業政策の中に環境への配慮を盛り込み、92年のEU共通農業政策(CAP)改革でクロスコンプライアンスの導入を提起。取り組みは任意だったため、加盟国のほとんどで取り組みは進まなかった。流れが変わったのは、2005年の義務化以降。環境への意識が高まった半面、農家がきちんと制度を守っているかを確認するため、公的機関などの負担が増した。
世界的な潮流を受け、農水省も試験的にクロスコンプライアンス制度を導入する。だが、高齢化で担い手が不足する農業の現場では、舌をかみそうな言葉の意味や制度の内容は浸透していない。まずは制度の仕組みを分かりやすく伝える工夫が求められる。
仕組みはこうだ。4月から全ての補助事業を申請する際は「環境負荷低減のクロスコンプライアンスチェックシート」の提出が必要となる。
具体的な内容は、①適正な施肥②適正な防除③エネルギーの節減④悪臭および害虫の発生防止⑤プラスチックなど廃棄物の発生抑制と循環利用、適正処分⑥生物多様性への悪影響の防止⑦環境関係法令の順守――などの項目に農家がチェックを入れて申請する。具体的な削減値などは設けず、生産現場の環境への意識を高めるのが狙い。27年度以降は、チェックを入れた項目の実施状況の報告も義務付けるが、どの機関が把握し、確認するかは不透明だ。
同省は「なるべく現場の負担をかけない制度にしたい」(大臣官房)としているが、制度への理解を促すことが先決となる。