[論説]メン羊の食肉処理場減 実態調査し改善策示せ
国産の羊肉はフレッシュで品質面の評価が高い。生産者によると、ホテルや高級レストランからの引き合いがあり、インターネットを使った直販など手堅い需要がある。
羊肉の自給率は、枝肉ベースで2013年に1%を切ったが、国内のメン羊飼育頭数は近年、微増傾向で推移している。21年には新型コロナの影響か、前年と比べて6%減の1万9992頭となったが、最新の22年は2万3729頭と2割近く増え、コロナ前より盛り返している。
総飼養戸数、1戸当たりの飼養頭数ともに、22年は近年で最多。牛の飼育をやめた高齢農家が飼い始めた例や既存の飼育者の規模拡大が、増頭につながったとみられる。
豚肉や牛肉は宗教的な理由で忌避される場合があるが、羊肉にはそれがない。増加するインバウンド(訪日外国人)の中でも、インドネシアなどイスラム圏からの訪日客を視野に入れ、今後の需要の伸びを見込む生産者もいる。
ただ、現場からは生産意欲はあるものの、食肉処理がネックになり、増頭に踏み切れないとの声も出ている。
厚生労働省によると、食肉処理場は全国で162カ所(23年)。ここ10年で25カ所減ったが、メン羊の食肉処理料金を設定している施設は同36カ所も減った。料金を設定していても、必ずしもメン羊に対応しているとは限らない。実際に食肉処理をしている施設はさらに少ないとみられるが実態は分からない。
全国の飼育頭数の半分以上は北海道。都府県では頭数が少なく安定的な出荷頭数が見込めず、食肉処理の対応はしにくい。牛や豚との交差を避けるため、最初に病畜用のラインで対応するなど、工夫をしてはいる。だが事前に出荷頭数を決めるなど、融通は利きにくい。まずはメン羊の食肉処理の実態調査が必要だ。
既存の施設に受け入れてもらうには、どうすればいいか。「調査を踏まえ、関係機関で検討してほしい」と生産者は求める。法で規定されているメン羊の食肉処理を、野生獣を処理するジビエカーで対応できないだろうか。イノシシや鹿の肉と同じ制度を利用する際には法的な課題が何か、その検討も必要になる。
国や都道府県の行政指導や法令改正が必要になることも考えられる。高品質の国産畜産物を守るため、関係機関で問題意識を共有し、改善策を検討する場を設けるべきだ。