[論説]みどり戦略の推進 鍵は国民理解と所得増
国内の有機農業面積(2021年)は全耕地の0・6%に当たる2万6600ヘクタール。同省は30年に6万3000ヘクタール、50年までに全耕地の25%に当たる100万ヘクタールにする目標を掲げるが、ハードルは高い。
実現に向け、同省は22年7月に「みどりの食料システム法」を施行。23年度から都道府県による農業者の計画認定が本格的に始まったが、農業者の認定は1万5000人以上(見込み)、モデル地区は16道県の29区域にとどまる。
さらに同省は、4月から全ての補助事業に対して最低限取り組む必要がある環境負荷の低減策について、現場の農家が確認する「クロスコンプライアンス」を試験的に導入。27年度からは事業の採択要件とし、有機をはじめ環境に優しい農業へ誘導する。
だが、生産者にとってみどり戦略のメリットを直接、感じられなければ、取り組みの拡大は見込めない。高齢化が進む中でチェックシートの提出も求められ、現場の負担は増す。加えて化学農薬・肥料などを使わない有機農業は、慣行栽培に比べて収量は減りやすい。気候変動が激しい中で、持続可能な農業につながる所得を確保できるのか。
同省によると、21年の世界の有機食品市場は約1355億ドル。欧米は1人当たりの年間消費額は1万~2万円だが、日本は1400円ほど。同省は「伸ばす余地がある」というが、食料品など物価の高騰が続く中で、消費者意識をどう高めるかも鍵を握る。
着目したいのが、環境負荷を低減した農産物がひと目で分かる「温室効果ガス削減マーク」。土壌への炭素貯留や緑肥の使用などに応じて温室効果ガスをどれだけ削減したかを算定し、星印で表す。環境に配慮した国産農産物を選んで食べることで、消費者側にも「農業に参加している」という機運をつくりたい。
環境負荷の軽減は、いまや世界の潮流だ。だが、欧米と違って、日本は高温多湿の気候だけに、病害虫のリスクは常につきまとう。東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、アジアモンスーン地域に適した対策を提唱する必要もある。
農業が持続可能な産業になられなければ、担い手は増えない。一定の所得がなければスマート農機も導入できない。消費者の理解を得ながら、農業所得をどう確保するか。国会での熟議を求めたい。