[論説]家庭需要増す米 適正価格で生産持続へ
人口減や食の欧米化などで、米の国内需要量は年間700万トンを割り込み、ここ20年で2割も減った。需要は減少基調にあるものの、風向きは変わりつつある。
消費者の主要な購入先であるスーパー各社では、家庭用精米の売れ行きが好調だ。農水省によると、米卸から小売り向けの販売数量(3月)は前年同月比7%増と、9カ月連続で前年を上回った。2023年産米は産地価格の回復で、小売価格も5キロ当たり数百円上げる店舗が多い。安売りの頻度が減っても、米の勢いは止まらない。
背景には、消費者の節約志向がある。物価高でパンや麺の値上げが相次ぎ、牛肉など高価格帯の食材も苦戦を強いられる。加えて、天候不順を受けてキャベツやブロッコリーなどの野菜も記録的高値となる。一方、米は茶わん1杯で約30円と値頃感があり、「ご飯食の需要が高まっている」(日本生協連)という。
家庭用の精米販売だけではない。具だくさんのおにぎりも手軽においしく食べられるとあって消費が好調だ。昨年から今年にかけて、食のトレンドメニューに「おにぎり」が相次いで選ばれ、専門店も増加した。日本の米は海外でも支持され、23年の米輸出額は3割増の94億円に達し、24年も高水準で推移する。
需給の逼迫(ひっぱく)を受け、米の価格も回復している。産地と卸の相対取引価格は前年産を1割上回る。スポットで米を手当てする業者間の取引価格も軒並み上昇し、取引を行うクリスタルライスによると、4月の秋田「あきたこまち」は60キロ当たり税別2万円を超えた。23年産の出来秋時に比べ、5割高となる異例の水準だ。
こうした流れを持続させることが課題だ。農家の高齢化や担い手不足の中、水田を将来にわたって維持することが前提となる。米が値頃な商材として引き合いが強まる一方、適正な価格形成をどう進めるかが重要となる。生産資材の高止まりが続き、適正価格での米販売が今後も定着するか、注視が必要だ。
産地では、24年産米の作付けが本格化する。米価が上向いていることで、転作作物から主食用米への揺り戻しを警戒する声もある。増産で需給が緩み、価格下落を招けば産地の維持は難しい。長期的な視点に立って、持続可能な米作りにつなげたい。