[論説]多岐にわたる盗難被害 地域ぐるみで厳重警戒
近年、目立っているのは、側溝を覆って、排水をスムーズにさせる格子状のふた「グレーチング」の盗難だ。新型コロナの影響で、停滞していた鉄の需要が世界的に伸び、価格が上がったためとみられる。鉄スクラップの価格は5月の関東・中部・関西平均で、昨年同月に比べて1割高い1トン当たり5万円超となっている。安価だった2020年の2・5倍に上る。
特に、人通りが少なく防犯カメラがない山林などの側溝に設置されたグレーチングは、盗難に遭いやすい。盗まれると落ち葉などで溝が詰まりやすくなり、排水が滞って農業用水が使えなくなったり、車のスリップ事故につながったりする恐れもある。
今春には、中部地方で用水路に設置した開閉式の鉄製のふたが相次いで盗まれた。人や軽トラが誤って水路に落ちる危険性もあり、被害は住民に及ぶ。不審な車や人を見かけたら、身の安全に注意しながら警察に通報しよう。
首都圏の果樹園では、散水用のバルブまで盗難に遭った。昨年は東北でナガイモ栽培に使う鉄製のパイプ支柱が盗まれた。金属価格が高騰しているため、新たに購入するにも費用がかさみ、経営への打撃は増す。農作物の盗難とは違って警戒時期を絞り込むことが難しく、対策が取りにくいのが実態だ。
加えて農作物、農機の盗難被害も深刻だ。昨夏の猛暑の影響でサクランボの正品率が落ち込む中、山形県では6月中旬までに昨年の3倍となる70キロの被害を確認。5月中旬には福島県で、施錠やハンドルロックの対策をしたトラクターとトラックが盗まれた。普段は人目に付きにくい場所に停めているが、メンテナンスのために防犯カメラの範囲外の場所に駐車していた。
監視カメラや携帯に通知が届くセンサー、全地球衛星測位システム(GNSS)など、防犯効果を期待できる機器は多くある。ただ、窃盗の常習者は一瞬の油断を突く。過去に複数台の農機を一晩で盗まれた農家によると、作業場に電気がつく時間帯や、収穫や出荷のタイミングを犯人に観察されていたのではないかと推測する。
周辺の小さな変化や違和感を見逃さないためには、行政やJA、地域一体となった協力が必要だ。盗難被害の標的が多岐に及んでいる実態を共有し、防犯意識を一段と高める必要がある。