[論説]農地の集積目標 実態踏まえた見直しを
改正食料・農業・農村基本法の最大の焦点、食料安全保障の根幹は「人と農地」の維持・確保である。農地の総量を確保するために、基本法の関連法として農業振興地域整備法(農振法)も改正し、転用規制を強化した。
ただ、農地を維持するには、活用する人がいなければならない。その「人」について、農水省は厳しい見通しを示した。基幹的農業従事者数は2000年の240万人から、23年には116万人に半減、年齢構成から推測して20年後には30万人に激減する恐れがあるという。これほど人が減ると、担い手が受け止め切れない農地が膨大に増えることが懸念される。もはや、農地集積を無理にスピードアップさせる状況にはない。
そもそも、8割集積の根拠が乏しい。2000年からの10年間で担い手への集積率が3割から5割に高まったのを、さらに1・5倍速にする発想である。“鳴り物入り”で農地中間管理機構(農地バンク)制度を立ち上げたことも背景にある。だが、直近10年間の農地集積率は5割から6割になったのにとどまり、集積のスピードは落ちている。
改正基本法では、従来の担い手に加え、多様な農業者を位置付け、農地が確保されるように配慮するとした。こうした方針を歓迎したい。現実離れした目標にこだわるのを改め、離農や規模縮小をできるだけ食い止めながら、農に携わる多様な人たちが活躍することで農地を維持するよう政策を強力に展開すべきだ。
もちろん、現場の実態に即した集積は重要である。改正基本法では、担い手の農地面積を広げるという集積に加えて条文に「農地の集団化」、集約の考えを追加した。
坂本哲志農相は、集積は一定に進んだと評価した上で「担い手が利用する農地が分散しているなどの課題も浮き彫りになった」と認める。農地を団地化する目標地図づくりが鍵を握り、各地での地域計画の話し合いに期待したい。
ただ、最も重要なことは、農業者が営農意欲を持ち続けられることである。改正論議では、農産物の適正な価格形成が最大の関心事だったが、これは経営が厳しいことへの裏返しであり、「人と農地」が減少の一途をたどっているのも、そのためと言っていい。所得を支える政策の整備は、農地を維持し食料安保を確保するための喫緊の課題だ。