[論説]酪農家の減少 持続重視の政策が必要
酪農家の戸数は、2023年は全国で1万2600戸と2000年の3分の1近くまで減った。酪農地帯、北海道は9950戸(2000年)から5380戸(23年)へとほぼ半減した。全体の約9割を占める指定生乳生産者団体に出荷する酪農家は、前年と比べて5%台の減少が続く。都府県での減少率が高い。
後継者不在や高齢化、経営の悪化など理由はさまざまだが、近年の減少は中小規模ばかりではなく、大規模層でも進んでいる。都府県では、規模拡大とともに購入飼料への依存を高め、飼料高騰が経営難につながっている。
酪農家の減少が続けば農地の保全や利用、地域経済、地域活動の維持に影響を及ぼす。多くの関係者が「酪農家の離農は、地域全体の崩壊につながる」と口をそろえる。対応を急ぐ必要がある。
学校給食に欠かせない牛乳・乳製品の生産が縮小してしまう、といった消費者の不安もある。政府は、酪農家の減少と地域社会の衰退に対して、もっと危機感を持つべきだ。足りなくなればバターや脱脂粉乳を輸入すればいいという安易な姿勢は、酪農家の離農を促すだけでなく、食料安全保障をも揺るがす。
日本の酪農は、集約化、規模拡大路線をひた走り、1戸当たりの経産牛飼養頭数は70頭近くに達した。生乳生産量の約6割を占める北海道は同90頭と、欧州にも見劣りしない規模に発展した。畜産クラスター事業で規模拡大に誘導しておきながら、コロナ禍で急に生産抑制へとかじを切った後遺症は、今も続いている。その上に、円安による生産資材の高止まりが経営を圧迫している。
中央酪農会議が昨年3月に行った調査では、酪農家の85%が赤字で、6割近くが離農を検討する意向を示していた。その後の状況も含め、農水省は実態調査を急ぐべきだ。
政府は、10年先を見据えた食料・農業・農村基本計画や酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)の見直しを始める。北海道大学大学院の小林国之准教授は、「政府は、今の酪農家が経営を続けていける方向性を示す必要がある。地域ごとに持続できる酪農経営の姿を示すべきだ」と注文する。重要な指摘である。
生産性向上よりも、牛の飼育環境や地域社会を考え、持続性に配慮した「日本型酪農」を目指す時だ。