[論説]スマート農業技術 中山間地域の普及が鍵
先の通常国会で成立したスマート農業技術活用促進法が10月に施行される。同法は、食料安全保障の確保を理念に掲げた改正食料・農業・農村基本法の関連法案の一つで、賛否が分かれた他の2法案と違って唯一、与野党が賛成した。農家の高齢化や担い手不足への対応としてスマート化を推進する必要性が確認された。
同法は、自動収穫機などの導入に合わせて栽培方式を見直す「生産方式革新実施計画」を作った産地を認定し、税制や融資などで支援する。これに合わせ、農水省は認定を受けた産地の機械導入や、施設整備を補助する新事業も創設。今後5年間で、産地へのスマート農業技術の導入を集中的に進める方針だ。
かつて農業収入に見合わないような高額なトラクターやコンバインを買う農家の「機械化貧乏」が問題となったが、農業に必要な初期投資は一層大きくなり、農業参入を阻む高い壁になっている。資材高騰で苦しむ農家が「スマート化貧乏」に陥らないような支援体制が求められる。同法を審議した衆参農林水産委員会は付帯決議で、「中小家族経営や中山間地域等の条件不利地を含めた農業者の生産性向上に寄与するものとなるよう」求めた。
国会審議では、通信環境の未整備の実態も明らかになった。同省によると、一部でも携帯電話などの通信ができない農地は推計10万ヘクタールあるという。地理的条件の不利に加え、スマート農業技術を利用する上での格差解消は喫緊の課題だ。
人手がかかる果樹や野菜の収穫・調整にかかる技術開発の遅れも指摘されている。自動収穫ロボットを導入するには栽培体系や出荷規格の見直しが必要で、産地と実需者の理解を得ながら進める必要もある。
政府は、同法の制度運用の考え方を盛り込む基本方針案で、計画認定の要件として「労働生産性の5%以上向上」を提示した。人手が減る中で、なんとか生産を維持しようと奮闘する産地の実態に合った運用を求めたい。
どんな技術も、使い方を誤れば悲惨な結果となる。技術を提供する企業への依存が強まる危険もある。農家がスマート技術に習熟するための仕組みづくりや、利用契約を結ぶ農家を保護する体制を整えておくことも欠かせない。