[論説]東北で相次ぐ水害 農業維持へ強靱化急げ
秋田、山形両県で7月24日から25日にかけて記録的大雨となり、秋田県では2年連続で大規模水害が発生。昨年の大雨による農林水産関係の被害額は100億円に達し、今年も既に30億円を超えた。全容把握はこれからで、被害はさらに膨らむ恐れがある。
山形県の被害も深刻だ。最上川の氾濫で、同県戸沢村蔵岡地区では約70世帯が暮らす集落全体が浸水。2018年に支流が氾濫した経験から地区を囲む「輪中堤」を整備したものの、本流が100年に1度の水位上昇となり、河川防災の難しさが露呈した。水害から1週間たつ現在も、酒田市では約400戸(31日時点)で停電が続く。復旧のめどは立っていない。
酒田市大沢地区で水稲を約6ヘクタールを経営する高橋一泰さん(75)の農地は土砂の流入が激しく、流木が押し寄せた。「電気や水道は止まったまま。この状態で集落にとどまり、農業をやる若者はいるだろうか」と高橋さん。想定を超える水害に見舞われ、農業を続けられるのか、疑問だという。別の地区の住民からは「集団移転も考えなくてはならない」という声も上がる。国土強靱化へ、政府の迅速な対応が求められている。
災害が起こるたびに集落は消滅の危機に直面する。総務省によると19年までの4年間に、全国で164の集落が消滅した。うち東北と近畿の2集落は災害が原因だった。都市への一極集中を食い止め、地方分散の潮流をつくるには、豪雨の被害を最小限にとどめ、農業を続けられる環境を整備する必要がある。
選択肢の一つとなるのが、高台への集団移転だ。移転先から通いながら農業を続けるという考え方も必要となる。
広島県と島根県を流れる1級河川の江の川は、氾濫を繰り返し、集落は幾度も水害に見舞われてきた。このため島根県美郷町の港地区は、次世代のことを思い、国の防災集団移転促進事業を活用し、地区内の高台にある安全な場所への集団移転を決めた。
同地区の元自治会長、屋野忠弘さん(82)は「浸水被害がなく安全な場所であれば、子や孫も住みたいと思うかもしれない。小規模でもいいので農業を続けてもらいたい」と通い農業へ期待を込める。
温暖化が進み、気象は極端化し、災害は全国各地で頻発する。命を守り、農業を続けていける対策が急務だ。