[論説]国の支援強化が不可欠 子実用トウモロコシ
発端は、国産の子実用トウモロコシの振興について坂本哲志農相が、4月の衆院農林水産委員会で「生産を今後大きく引き上げることは現実的に困難」との見通しを示したこと。国内では、耕地面積に制限があるなど、低コスト化に限界があると説明した。
現場からは「なぜ、そんなことを言うのか」「生産振興にブレーキがかかる」と懸念する声が相次ぐ。ウクライナ危機以降、輸入飼料などの高騰が続くが、コストの転嫁が農畜産物で十分に進んでいない。改正基本法42条では「輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進」を掲げ、「必要な施策を講ずる」としている。
現場は既に動いている。日本メイズ生産者協会によると、2014年に全国で100ヘクタールほどだった子実用トウモロコシの栽培面積は、23年には2300ヘクタール超と急拡大。24年産も北海道などを中心に拡大を見込む。水田で生産できる新規作物としても注目され、22年度は高収益化に向けて、政府が生産を支援したことが増産の追い風となった。
農研機構によると、子実用トウモロコシの労働時間は10アール当たり約2・5時間で、大豆や小麦をさらに下回る。人手不足が深刻化する中、農地を維持する手段として期待する農家も多い。根が深く張るため排水性は向上し、その後の作物にプラスに働くとの調査結果もある。
一方、水田活用の直接支払交付金は、飼料用米が10アール当たり標準7万5000円に対し、子実用トウモロコシは3万5000円と開きがある。水田、畑作経営にとって子実用トウモロコシは有望な選択肢の一つ。貴重な国産の濃厚飼料だ。輸入依存からの脱却へ支援の強化を求めたい。
国産飼料を食べて育った牛や豚、鶏などの肉や加工品を求める消費者は多い。昨秋のセミナーで生活クラブ生協北海道は、遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの混入リスクがない国産濃厚飼料の生産拡大を強く支持した。
各地で対応が進む、水田活用の直接支払交付金の見直しについても、水田作から“卒業”する農家の経営を支えられなければ、耕地面積の減少につながりかねない。その点、子実用トウモロコシなら水田転作としても畑作物としても優位性がある。国として引き続き生産を振興すべきだ。