[論説]国主導の緊急防除 情報発信分かりやすく
植物防疫法に基づき、現在緊急防除が実施されているのはアリモドキゾウムシ、ジャガイモシロシストセンチュウ、テンサイシストセンチュウの3種類。中でも7、8月に収穫する早掘りサツマイモの産地である静岡県浜松市では、昨年3月からサツマイモを加害するアリモドキゾウムシの緊急防除が続いている。
規制対象区域ではサツマイモの作付けや茎葉、芋の搬出が禁止され、家庭菜園や学校でも栽培できない。区域内のスーパーでは、芋を密閉した状態で販売しなければならない。サツマイモを使った食農教育もできない。アサガオにも寄生するため、プランターでの栽培も禁止されている。
11月上旬までに地域内で新たな個体が見つからなければ、国は緊急防除の解除へ検討に入る。7月に開かれた農業者や住民を対象にした説明会では国や自治体、JAの担当者らに対し、緊急防除の長期化や範囲拡大への不安を訴える意見の他に、「農業者の心情に寄り添った説明をしてほしい」「農業を知らない住民にはもっと丁寧にすべきだ」との注文が相次いだ。甚大な被害を及ぼす重要害虫だけに、誰もが分かりやすい情報提供が求められている。
アリモドキゾウムシ対策の先進地・鹿児島県でも、情報提供の在り方が課題となっている。県は「作付けの禁止を農業者、県民に実践してもらうには、同じことを何度も繰り返して訴える必要がある」と指摘する。国や自治体、JAなどが一体となって、なぜ栽培を禁止するのか、緊急防除で生活にどんな影響が出るのかなど、県民が納得して実行に移せる説明が必要だ。
緊急防除を終えた後の情報提供も欠かせない。農水省は2021年3月末、緊急防除の対象となっていた「ウメ輪紋ウイルス(PPV)」について、感染した梅が少なくなったことから解除を決定、ウイルスを運ぶアブラムシを防除すれば、病気の拡大を防げると判断した。だが、今でも苗木を地域外に持ち出すときには事前検査が必要だ。関係者は「根絶へ梅34万本も伐採した。国は緊急防除を打ち切ったが、制限は残る。納得できる説明が欲しい」と話す。
訪日外国人に加え、夏休みで人や物の移動が活発になっている。温暖化も進み、未発生の病害虫が侵入するリスクは一層高まる。感染を食い止めるには、行政によるきめ細かな情報発信が必要だ。