[論説]衆院解散・総選挙へ 食と農の未来託す選択
石破首相に問う。新政権発足から8日後の解散は、戦後最短だ。自民党派閥の裏金問題で失墜した信頼を取り戻すべく、総裁選では、予算委員会などを通じ、国民に判断材料を示すと言っていたが、なぜ“変節”したのか。野党が「敵前逃亡解散」などと批判するのも無理はない。
首相(自民党総裁)は、世論の逆風に押される形で、裏金事件で党内処分された一部議員を非公認とし、政治資金収支報告書への不記載議員の比例重複も認めない方針だ。これで首相が掲げる「国民への納得と共感」は得られるのか。公約では「政治とカネ」の問題を受け、ルールの厳守をうたい、政策活動費の透明化も進めるというが、その本気度が厳しく問われる。
15日公示の選挙では、こうした石破政権の政治姿勢が争点となる。首相は、「全ての人に安心と安全をもたらす社会の実現」を政権運営の基本に据え、食料安全保障も柱に位置付ける。また、「地方こそ成長の主役」とし、農林水産業の持続的発展に意欲を示す。安定した米政策、資材高騰対策、コストに見合った適正な価格形成の法制化、食料安保予算の確保などの具体的な実効策も公約に明示すべきだ。
政権交代を目指す野党にとっても正念場の選挙となる。立憲民主党は「政権交代こそ最大の政治改革」として、裏金問題を争点に追及を強める。ただ野党間の候補者調整は難航しており、自民党と対決構図に持ち込めるかが鍵となりそうだ。
農政では、各野党とも食料安保の強化や農業・農村振興の重要性はほぼ共通するものの、個別政策では差異がある。立憲民主党は、農地に着目した直接支払制度の創設などを求め、日本維新の会は、米増産への転換、株式会社など多様な担い手の参入を訴える。選挙戦を通じて各党には、建設的で具体的な農業論戦を期待したい。
先細りする農業の再建、疲弊する農村の再興、災害被災地の復旧・復興、有事に備えた国産振興、人口減少下での産業育成や社会保障、ジェンダー平等など、わが国は多くの社会課題を抱える。
厳しい農業・農村の現実に向き合い、「解」を導き出し、実行力を持った政党、候補者は誰なのか。公約や論戦を通じ見極めよう。選挙とは意思表示。この国の食と農の未来を決める選択となる。