[論説]体験型商品売り出そう 農業農村の「コト消費」
消費者庁によると、従来の消費行動であるモノ(商品)を買って所有する「モノ消費」に対し、旅行や習い事、芸術鑑賞など機会やサービスを享受することを「コト消費」という。非日常の体験に価値を見いだし、お金を払う行動で、「若者ほどコト消費にお金をかける傾向がある」と同庁は分析する。
農業分野のコト消費で伸びが見込める分野に、農泊がある。農水省によると656地域(2023年度末)が農泊に取り組み、宿泊客数は延べ794万人に上った。同省が25年度目標に掲げた延べ700万人を前倒しで達成した。
一方、課題は農泊をビジネスとしてどう成り立たせるかだ。農泊の1人当たりの平均宿泊費は1泊1万2904円と、観光旅行全体の1万5140円に比べて15%程度安い。所得確保につなげるためには、地域ならでは体験メニューの充実が鍵となる。
農業体験をネット上で販売しているJAもある。JAあいち豊田は、独自に運営するネットショップ「MEKIKI」上で、五平餅作りやこんにゃく作り、ミニトマトの収穫体験といった、食と農の体験を商品として販売している。2023年から取り組みを始め、価格は1グループ(2~4人)2000~5000円に設定。講師はJA女性部員やJA職員らが担当する。
JA担当者は、体験ビジネスは「まだ手探りの状態だが、JAらしい商品と評価を得ている。特に20、30代の親子にJAを身近に感じてもらえる」(特販課)とし、次世代のJAファンにつながるとみている。JAあいち中央も今年からネットショップ「碧海(へきかい)そだち」で、イチジクの収穫体験や梨の選果場見学を体験型商品として扱い始めた。
こうした体験型商品は最初は注目が集まるが、扱うJAが乱立すれば人気は分散する。他の地域との違いを見いだし、独自商品に育てることがポイントとなろう。
農家が経営する観光農園などもコト消費に含まれる。農業・農村は、若者や子育て世代が求める体験型の商品を提供するのに最適な環境にある。近年はコト消費の延長として、持続可能な開発目標(SDGs)の達成につながる消費行動が目立つ。JAなど協同組合に通じる価値観だ。農産物に加え、体験を商品として積極的に売り出そう。