[論説]イネカメムシ多発 官民挙げ防除体制築け
出穂直後のもみを吸汁して不稔にさせる同害虫は、1970年代後半以降は、ほとんど確認されていなかったが、2020年ごろから発生や被害が見られるようになった。
日本農業新聞「農家の特報班」が農家から寄せられた情報を基に取材を進めると、昨年も発生していて、減収を余儀なくされた農家もいた。
生態は未解明な部分が多く、今年は地元の農家が「これまでになかった」という事例も複数の地域で確認された。その一つが出穂前の発生。同害虫の発生密度が高いほど出穂後、ただちに被害を受ける恐れもあるだけに、来年以降も警戒が必要だ。さらに今年は出穂後に発生し、防除したにもかかわらず、再び被害が確認されたケースもあった。
発生を抑え、米の収量を確保するために欠かせないのは出穂期の薬剤防除だ。農水省は今春、自治体や農業団体に同害虫の防除を徹底するよう呼びかけた。今年、新たに確認された事例などを踏まえ、防除体制の強化が必要だ。農水省や自治体、JAは連携して現場の情報を収集・分析し、出穂期に加えて、前後の防除も徹底するなど現場の農家への注意事項を取りまとめ、発信してほしい。
今年は、収穫が終わった株から出る二番穂でも発生が確認された。もみを吸った同害虫が越冬すれば、次作で多発の恐れが出てくる。同省には、二番穂で初めて被害が確認されたという情報が複数県から寄せられているという。
発生を予防する対策は、早期耕起とすき込みにある。これまでの斑点米カメムシ類と同様、薬剤防除と合わせ、収穫後の早期耕起など耕種的防除の重要性を現場に発信していくことも、防除体制を確立する上では欠かせない。
加えて、農家が防除などに費やした労賃やコストを米価に適正に反映できる環境づくりが求められる。気候変動が進み、収穫後を含め年間通じて同害虫を警戒し、防除や水田管理に費やす農家の負担はこれまで以上に重い。同害虫の防除だけでなく高温や資材高騰の中、現場の負担を適正に評価する仕組みづくりが急務だ。
同害虫の防除をはじめ、努力に見合う適正な米価が確保されなければ、稲作の維持は難しい。官民の力を結集して防除体制を確立し、再生産可能な米価につなげよう。