[論説]農作業安全強化月間 研修重ね事故を防ごう
改正食料・農業・農村基本法では「農業の雇用に資する労働環境の整備」(27条)が明記されたことを受け、同省に加え厚生労働省でも、安全対策の強化に向けた検討が進んでいる。高齢化が進み、担い手だけで地域農業を維持するのは限界にきている。それを補うのが、同法で新たに盛り込まれた「多様な農業者」だ。地域おこし協力隊や移住者、農的な暮らしを楽しむ「半農半X」の実践者、消費者など、農村に暮らすあらゆる人たちと力を合わせ、農業を維持していく必要がある。
だが、夢を抱いて飛び込んだ先で事故に遭う――。そうした事態はなんとしても防がねばならない。草刈り一つとっても危険と隣り合わせの作業だ。自治体やJAによる安全研修は欠かせない。
多くの人が研修を受けることで、死亡事故を減らす効果も期待できる。農水省が都道府県別の農作業事故死亡者数と安全研修の実施状況について分析したところ、多くの農業者に対して研修をした都道府県の方が、平均死亡者数の減少が大きいことが分かった。2022年の研修人数が計100~500人の16県では、死亡事故の減少数が平均1・1人と全国平均(1・4人)を下回ったが、研修を受けた人が計2000人以上の群馬、京都、北海道、香川、宮城の5道府県では、死亡事故の減少数が2・6人と平均を上回った。
重大事故が起きれば、治療費や入院費など多大なコストがかかることを考えれば、安全作業はコスト削減にもつながる。農水省は効果的な安全教育の確立に向け、25年度予算として前年度を上回る8600万円を計上した。
期待したいのはJAの取り組みだ。JA鳥取西部は、女性農業者を対象にした「農作業レディース研修会」を開いている。JAが研修会を開いて今年で14年。JAの農機センターの担当者が講師となり、刈り払い機や歩行型トラクターの正しい使い方、注意するポイントを解説する。女性のネットワーク力で研修内容を家族や友人と共有することで、安全への意識啓発につながる。農研機構とJA共済連が開発した、事故の怖さを疑似体験できる「VRゴーグル」も活用したい。
事故を起こせば経営は立ち行かなくなり、自分や家族の運命を狂わせる。農閑期は安全研修に力を入れよう。