[論説]適正価格へ法案審議 国民理解醸成が最優先
審議が進むのは、食品等流通法と卸売市場法の改正案で、売り手と買い手が、価格交渉に誠実に臨むことを求める努力義務を課すことなどが柱となる。資材高騰に苦しむ生産者にとって、適正な価格形成の実現は悲願だ。だが、法案が成立しても効果がなければ意味がない。実効性ある仕組みをどう構築するか、与野党は議論を深め、展望が開ける道筋を示してほしい。
焦点の一つが、交渉の目安となる「コスト指標」にある。規模が小さい家族経営や、中山間地域にも配慮した指標を示す必要もある。検討が進む牛乳や米、野菜、豆腐・納豆の対象品目についても、多様で幅広い指標とすべきだ。
特に重要となるのが、物価高に苦しむ国民理解をどう得るかだ。農水省によると、直近のスーパーの米の平均価格は5キロで約4200円。前年同時期と比べて2倍となり、政府備蓄米を放出しても収まらない米価上昇に、不満を抱く消費者は少なくない。
一方、コストを反映した持続可能な米生産と安定供給には一定の値上げは欠かせない。米の直近2023年の60キロ当たり生産費(個別経営体)は1万5948円。これに対し粗収益は同1万2945円と生産費を賄えず、赤字経営を余儀なくされている。再生産価格を確保できなければこの先、誰が米を作るのか。農業の実態を発信し、農業の応援団を増やす必要がある。
気になるのは応援団どころか、農業現場に批判的な意見が目立つことだ。備蓄米の入札にJA全農などが参加したことで流通が遅れ、米価が高く維持されているという誤った情報が交流サイト(SNS)などで散見される。
だが、事実は違う。全農が5月1日までに米卸に引き渡した備蓄米は6万トン弱。米卸から4月に注文があった分は全量を引き渡した。全農などの集荷業者が、備蓄米を卸売業者に販売する段階で上乗せした金額は60キロ当たり約1000円。必要経費だけを加えた利益なしの価格で販売している。備蓄米が放出されても米の価格があまり下がらないのは、後手に回った政府対応のまずさが招いた結果だ。
米の安定供給に取り組むJAの役割を改めて発信し、国民が農業を応援する機運を高めたい。国民理解が進むよう改正案でも議論を尽くしてほしい。