[論説]気候変動時代の農業 再生産価格の確保が鍵
気候変動への危機感は増している。日本農業新聞「農家の特報班」が民間企業と実施した共同アンケートでは、全回答者361人の98%が、猛暑・高温などが日本の食に「影響を与えている」と答えた。無作為抽出の世論調査とは異なるが、危機感の表れと言えるだろう。
このうち農家や農業関係者の97%は、農業経営や地域農業が気候変動によって「打撃を受けている」と回答。害虫の多発や高温障害による農産物の品質低下に苦しんでいるとの声が相次いだ。さらに、農家自身も資材価格の高止まりに加え、熱中症のリスクも高まり、心身ともに負担は増すばかりだ。
気候変動に適応した生産技術、農作業安全対策の強化と並び、持続可能な農業経営に欠かせないのが「再生産価格」の確保だ。アンケートでは農家から「国民に農家の大変さを含めた対価を理解してもらい、負担してもらわないと、異常気象の中で頑張っている農家はやってられない」と切実な声が寄せられた。
ただ、再生産価格という言葉や考え方が浸透しているとは言いにくい。「意味も含めて詳しく知っている」と回答したのは、消費者側に限ると29%にとどまった。気候変動が食に与える影響は認識しているものの、生産現場の実態や課題を知らない人は多い。
食品に限らず物価が高騰し、家計は厳しい。「生産者や消費者の努力も限界がある。国が責任を持って農業を守るべきだ」と政府の役割を重視する声も上がる。国民に再生産価格の確保がなぜ必要なのか、その意義を理解してもらい、受け入れ可能な環境をどうつくるか。気候変動の影響を直視し、国を挙げて取り組むことが重要となっている。
政府は、新たな食料・農業・農村基本計画で「食料システム全体での合理的な費用を考慮した価格形成の推進」を打ち出した。生産コストを農畜産物の価格に転嫁でき、再生産ができる所得の確保が求められる。
国民理解を広げるには、農家が直面する課題を国民各層に発信し、広く共有する必要がある。有事の際にも国民に安定的に食料を供給できる食料安全保障の確立に向け、政府が責任を持って取り組むべきだ。気候変動下でも持続できる農業の実現には、賃上げを含め国民の所得を増やす施策も欠かせない。