円安、資源高騰で「地域医療が崩れる」 厚生連病院、輸入品多く経営圧迫
膨らむ電気代 命支える機器、節電難しく
「何かの間違いではないか……」。茨城県厚生連の酒井義法理事長は7月、4億円の負担増となる光熱費の見積もりに目を疑った。これまで割安な電力会社と契約して電気代を抑えてきたが、原油高騰によって10月から契約を更新できなくなったことが原因だ。
抗がん剤やペースメーカーなど高度な医薬品、機器は輸入品が多く、円安の影響が大きい。経費全体では本年度、前年度より約10億円増える計算だ。酒井理事長は「高騰を理由に薬や資材を使わない選択肢はない。最善の医療を提供するのは病院の使命」と話す。
医療機関は節電も難しい。神奈川県厚生連の相模原協同病院(相模原市)では、医療機器管理室の人工呼吸器や除細動器など約60種類2000台の機器について、待機中も電力を供給する。停電や急患などあらゆる事態に対応するためだ。
「命に影響を与えるものほど電力消費は大きい」と医療技術部の小俣利幸副部長。例えばコロナ禍で注目された「エクモ」は、体内から血液を取り出して酸素を供給し体に戻す。その過程で血液を温めるのに多くの電力を消費する。
高騰で、来年度の医療機器の更新や新規購入にも影響が出始めている。神奈川県厚生連の高野靖悟理事長は「高度医療を支える機器の購入が立ち行かなくなれば、中核病院の役割が果たせなくなり地域医療体制が崩れる」と懸念を強める。
水道光熱費8億円増加 21厚生連4~6月
光熱費や物価の高騰が病院経営を圧迫する背景には、医療機関の主な収入源が公定の診療報酬で、コストが増加しても価格に上乗せできない事情がある。
診療報酬は2022年度に改定されたが、急激な物価上昇や資源高騰は織り込んでいない。次回の改定は24年度の見込み。医療機関から支援を求める声が上がる中、国が示したのは地方創生臨時交付金の活用だった。
ところが、地方創生臨時交付金の使い道は各自治体に委ねられるため、支援にもばらつきが生じている。
茨城県は、11月補正予算案に1医療機関当たり最大30万円を給付する事業を盛り込んだ。ただ、コロナ患者受け入れのため空床を確保する際の補助を国から受ける医療機関は対象外。茨城県厚生連では対象病院が限られる上、1機関当たりの支援額も少ない。
神奈川県は9月の補正予算で1床当たり4・4万円の支援を盛り込んだ。神奈川県厚生連全体で3600万円を見込む。「ありがたいが、とてもそれでは追い付かない」
影響は全国に及ぶ。JA全厚連によると、病院のある全国21厚生連全体で、4~6月の水道光熱費は前年同期比30%(約8億円)増加した。年間で約33億の負担増となる見込みだ。今後の値上げを予告されているJA厚生連もあり、さらに負担は増えそうだという。
全厚連経営支援部は「十分な支援が医療機関に届くよう、国などに継続して要望を上げていく」と話す。