苗木費用の補助、技術協力
和歌山県有田川町の清水地域は、サンショウ「ぶどう山椒(さんしょう)」発祥の地として知られ、江戸時代から生産してきた。しかし、近年は担い手不足に加え、生産者の平均年齢が75歳に達するなど高齢化が深刻化。JAありだは、改植を促進するための苗木費用の補助や、若手生産者への技術協力などで、産地とブランドの維持を目指す。
サンショウの生育状況を確認する篠畑さん(和歌山県有田川町で)
「ぶどう山椒」は、粒が大きく辛味が強いのが特徴だ。実がブドウの房のようにつくことからこの名が付いた。枝に鋭いとげがあり、収穫に手間がかかる。
同地域のしみず山椒生産組合では現在、155戸が「ぶどう山椒」を約40ヘクタールで栽培している。2019年の202戸から約2割減った。拍車をかけたのが20年の台風だ。倒木被害が大きく、改植が追い付かずに断念する生産者が目立つ。JAは23年度から苗木費用の一部補助を実施して改植を後押し。年間の苗木注文数は開始前の約2倍、3000本ほどに増えた。
産地を守ろうと、新規就農して挑戦する若手もいる。6年前に大阪から移住してきた篠畑雄介さん(32)だ。農産物販売の仕事に携わった際に清水産の「ぶどう山椒」に出合い、「風味や緑色の鮮やかさに感動した」ことがきっかけ。産地の危機を知り、「ぶどう山椒を守りたい」と就農を決めた。
篠畑さんは移住後、山椒農家の下で3年間、管理を学んだ。近隣の農家へも積極的に訪問し、指導を仰いだ。篠畑さんは「サンショウ農家を志す人のロールモデルになりたい」と話す。そのために、効率的な生産体系の実践による収益性の向上を目指している。
JA営農指導員の中西祐稀さん(31)が、栽培技術面で篠畑さんをサポートする。中西さんは3年前から、早期収穫で着果負担を減らし、樹勢を維持する研究をしてきた。樹勢維持で多くの花を咲かせて着果量を増やすことで、1房当たりの収量を増やし、生産効率を上げる。篠畑さんとも小まめに情報交換し、導入を進めている。
平らに整地した園地では下草の育成も始めた(同)
篠畑さんは作業効率を上げるために自ら重機で整地を進めるなど、独自の工夫も重ねる。現在500本を管理し、今年初めて、整地した園地での収穫を迎える。接ぎ木技術を伝えた木下富夫さん(88)は「熱心に農業に取り組む姿勢には感心させられる。彼に負けないように頑張りたい」と喜ぶ。地域全体の活性化にもつながっている。
JAで広報や日本農業新聞への原稿送稿をしている「JA通信員」が執筆しています。毎回、JAの取り組みを伝える「地域発未来へ」と、管内のお勧めの飲食店を紹介する「地元でうまい店」、電子版有料会員向けの「取材後記」を書いています。タグ「JA通信」から各記事をご覧ください。