能登半島地震で被災した1次産業を支援するため、石川県が派遣する「能登農林水産業ボランティア」の活動が本格化している。県里山振興室によると、派遣要請の半数程度は集落ぐるみで作業を行う農業法人や大規模農家。避難などでやむなく地域を離れた農家が多く、委託する農地も増えているという。震度7を観測した同県志賀町を訪ねた。
同町の農事組合法人・増穂ファーム。作業員10人のうち4人の自宅が住めなくなったが、金沢市のみなし仮設住宅などから通い、全員で農業を続ける。代表の三本松繁さん(75)の自宅は全壊。農地から車で1分の場所にある、基礎が崩れたままの妻の実家に住んでいる。
今年は、昨年より5ヘクタール広い水田27ヘクタールを耕作する。受託農地が8ヘクタール増えたが、3ヘクタールが地震でひび割れた。一方、農業用水路の泥上げなど地震からの被害復旧が必要で、田植え期を前に人手が不足。3月下旬、県にボランティアの派遣を要請した。
東京から来た建設業の本間潔さん(50)は、災害ボランティアに初参加。「居ても立ってもいられず、1週間の休暇を取って能登に来た」と語り、播種(はしゅ)機に種もみを入れた。
静岡在住の会社員、重松恭平さん(34)も災害ボランティアに初めて参加した。「大学時代の友人が金沢に住んでいて、地震が人ごととは思えなかった」と話した。
育苗トレイ1000枚に播種し、パレット150個を並べ直した午後3時。石川県の農村で毎年、草刈りなどボランティアに参加する、金沢市在住の深田進さん(68)が「親しんだ農村の風景が戻るまで、ボランティアを続けたい」と語る。三本松さんが「5月中に田植えを終えられるかが分岐点。また募集したい」と、うれしそうに応じた。
石川県の災害ボランティアバンクの登録者は、8日時点で4万1000人。県里山振興室によると、4月26日までに90件の農林水産業ボランティアの要請があった。うち、5月2日までに38カ所へ398人を派遣。残りも日程の調整がついたか、見通しが立った。
JA志賀によると、同町の今年の水稲の作付け見込み面積は前年比約50ヘクタール減の1580ヘクタール。農家からボランティアのニーズを聞き取る県中能登農林総合事務所の担当者は「ボランティアの手も借りて、何とか農地を守ろうという状況」と話す。