「社会勉強でも」
「議員は議員しかできないと思っていた。自分でもなれそうだと知り、立候補した」。兵庫県出身で、2020年に同町へ移住。牧場アルバイトの他、酪農の現場を紹介するオンラインツアー「RAKUNOO(ラクノー)」の司会を務めるなど、町おこしの活動にも積極的だ。「町に貢献したい」と、牛柄の特徴的な服装の「牛のおねえさん」として町のイベントに関わる他、交流サイト(SNS)で農業や町の魅力を発信している。
酪農情勢の悪化を政治の側から何とかしたい、移住者を増やしたいといった思いで出馬を決めた。「忙しい酪農家に代わり、従業員の自分が議員になろうと思った」。選挙の準備は事務作業が多いなど面倒さも感じたという。ポスターはA4判と他候補より小さめに印刷してしまったが「逆に目立った」と前向きに振り返る。定数10のところ、4位の得票で当選した。
田中さんは「仮に落選したとしても損することはない。やゆされても気にせず、自分を応援してくれる人に目を向ければいい」と話す。「出馬のハードルは思うほど高くない。最初の一歩は、勢いで社会勉強としてやってみる価値はある」と振り返った。
高橋さんは牧場従業員として搾乳や飼料用トウモロコシの収穫作業などに関わる。政治に関心はあったが、遠い存在だった。立候補の届け出の締め切り直前まで悩んだが、「1次産業に関わる人の苦労を町議会に上げていきたい」という思いが出馬の決め手となった。
年上の世代で選挙に携わったことがある人らに聞き、立候補や選挙活動の方法を学んだ。周囲の農家は高橋さんのあいさつ回りに付き添うなどして支えた。高橋さんは「自分と同じ世代の人が同じように政治に関わってみたいと思えるようにしたい。任期中の一つの宿題だ」と考える。
田中さんと高橋さんが働く牧場の経営者は議員活動に理解を示す。仕事のシフトの柔軟な調整など、活動を後押ししてくれるという。
世代超え連携を
若者の政治参加を応援する一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」(東京)。大林香穂さん(渉外担当)は政治に距離感を感じる若者が多いと指摘する。「政治と生活の間にはダイコンの皮一枚しかないくらい、両者は身近な存在だ」と話す。
「若い人が出馬することそのものが地域や社会に与えるインパクトは大きいし、下の世代を力づける。投票が政治参加の唯一の手段ではない」と強調。出馬には世代をまたいだ連携が必要だとし、「多様な人が交流できる場をつくることや主権者教育の充実が今後ますます必要になる」としている。
<取材後記>
北海道の農村で立候補に踏み切った若者を取材した。時折、政治と生活に距離を感じる。20代後半の私も近い世代の挑戦には頼もしさを感じるし、政治をより身近に感じる契機になる。政治に関心があっても行動には至りにくい。「立候補は社会勉強という感覚でも良い」。そう考えられるようになるにはどうしたらよいのか。
まずは政治や社会について勉強すること。そして、自分とは異なる属性、例えば上の世代の人らと意識的に関わり、物事の見方や地域課題の発掘などをしていくことが大事だと教えられた。地域や自分の置かれた環境を良くしていきたいと挑戦する人や、周囲の関わり方のあるべき姿を、今後も取材して掘り下げたい。