
伊藤さんの笹巻は一辺約10センチ、厚さ2センチほど。プルプルして、わらび餅のような食感だが、米の甘味やササの香りが食欲をそそる。
製法は熟練の技が光る。ササを2枚重ねて漏斗状に。灰汁に浸したもち米を30グラム入れて、イ草で縛る。手元を見なくても、1個当たり20秒ほど。1日300個程度、シーズンの4、5月は1日500~600個作る。
元来は子どもの成長などを祈って作られる行事食。日持ちが良く、畑仕事の間食などに親しまれた。伊藤さんは「笹巻を煮ると、家々から米やササの香りがして、季節の到来を感じた」と懐かしむ。
伊藤さんは小学生の頃、祖母の難波さくらさんに作り方を学んだ。「隙間なく包め。米を無駄にするな」と教わり、数年かけて一人前に。親戚に配る笹巻作りを任された。
約30年ほど前から販売用の商品を作る。半日で売り切れる人気のため、現在は通年で製造、販売している。
各家庭で製法を受け継いできたが、手間がかかるため、作る家庭は減少。伊藤さんによると、庄内で作る人は20~30人程度という。
伝統の食文化を守ろうと、鶴岡市では継承者を育成する講座を開設。受講生から新たな担い手も誕生した。
夫が栽培するもち米「ヒメノモチ」による商品化を目指す佐藤智美さん(43)は、伊藤さんと師匠、弟子の関係。同じ庄内の酒田市出身だが、灰汁を使わない酒田の笹巻は白色。食感も異なり驚いたという。「プルプルの食感は訪日外国人にも喜んでもらえると思う」と語る。羽黒山神社近くに今月オープンする自身の産直店舗「月と土と人」での販売を目指す。
熊の出没が相次ぎ山に入るのが難しい伊藤さんに代わってササの葉を集める若者もいる。地元のボランティア有志らが手を挙げた。
伊藤さんは「笹巻を食べれば、皆顔がほころぶ。おいしいと喜んでもらえるのがうれしい」と話す。
笹巻作りは11、25日、同市の鶴岡アートフォーラムで開催中の特別展「和食-日本の自然、人々の知恵」の会場で実演される。
米の甘味とササの良い香り 端午の節句に
「庄内の笹巻」は、ひいた米粉を蒸して作る一般的な、ちまきと異なり、もち米を粒のままササで包んで煮る。
ササは固くならないよう、6月から土用の丑(うし)の日までに集めたものを用いる。もち米「でわのもち」や「ヒメノモチ」を水に3時間浸した後、灰汁に1晩漬ける。灰汁はアルカリ度13・5が最適という。ササで巻いた後、真水で1時間煮て冷やせば完成だ。
伊藤さんの笹巻は東京都内のアンテナショップや地元の「産直あさひ・グー」などで購入できる。1パック(5個入り)756円。問い合わせは同店、(電)0235(58)1455。