「農業を野球選手のセカンドキャリアの選択肢にしたい」と三ツ間さんは公言する。全国の野球ファンが観戦と併せて訪れる交流の場にしようと、横浜スタジアムから電車と徒歩で1時間程度の場所に40アールの農地を確保。ハウス5棟を建て、高設栽培で「紅ほっぺ」や「おいCベリー」、「桃薫」、白イチゴの「天使のいちご」など9品種を育てる。5日に直売、27日に摘み取りを始め、6月下旬まで開園する予定だ。
三ツ間さんのように、農家出身ではない元プロ野球選手の就農は異例だ。日本野球機構によると、三ツ間さんと同じ2021年にプロ野球を引退した143人のうち、75%が野球関係の仕事に就いた。他は一般企業への就職が多い。

就農は家族が後押しした。新型コロナ禍でプロ野球の開幕が延期された20年、外出もままならない中、当時1歳の息子のためにベランダで家庭菜園を始めた。「おいしい」と言われたのがイチゴ。21年12月に引退を決断すると、妻は「好きなことをしてほしい」と勧めた。試合で疲れて帰宅しても、夢中で世話をする姿を見ていたという。
家族のために「最短で就農し、収入を得る道を探した」結果、神奈川県立の農大校・かながわ農業アカデミーを知り、同月中に出願。縁のなかった同県内に引っ越し、翌年4月から1年間学びつつ、経営計画書を練った。横浜市のイチゴ農家で実習も重ね、認定新規就農者にもなった。
ただ、農地探しが難航し、一時は就農を断念しそうにもなった。地権者に飛び込み訪問をしては断られ、数十軒回ってようやく借りられた。「元野球選手=お金持ちと見られ、本気で農業をやる気があるのかと思われた」。実際には、設備投資のために数千万円を借り入れ、一部は譲り受けたり、材料を安く仕入れて自作したりしてコストを抑えている。
ファンに支えられ
一方、「元・野球選手」で良かったこともある。ファンの存在だ。交流しながら作業を手伝ってもらう“オフ会”には延べ100人超が参加。その一人、同県茅ケ崎市の会社員・宮崎孝仁さん(32)は「ボールをイチゴに持ち替え、真剣に向き合う姿に感銘を受けた」。資金確保のためのグッズ販売やクラウドファンディングでもファンが支えてくれた。
就農までの経緯は、苦労も含め、交流サイト(SNS)で発信してきた。「高校時代は補欠。野球選手も就農も無理だと言われたが、なりたいと言い続ければ、助けてくれる人がいる」という。数年後には農園を増設する計画も描き、同じ道を選ぶ元野球選手が現れることも期待する。
「絶対に成功させたい。農業も、プロ野球選手のセカンドキャリアも先行きが暗いと思われがち。それを変えたいんです」
みつま・たくや
群馬県出身。健大高崎高、高千穂大、独立リーグ・武蔵ヒートベアーズを経て、2015年育成ドラフト3位で中日に入団。主にリリーフで活躍し、通算成績は4勝3敗15ホールド。